【自著を語る】人の命の長さは、生まれたときから“定まっている”

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定命を生きる

『定命を生きる』

著者
枡野 俊明 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093887496
発売日
2020/02/27
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【自著を語る】人の命の長さは、生まれたときから“定まっている”

[レビュアー] 枡野俊明(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学環境デザイン学科教授)

「人生100年時代」となった今、歳を重ねるごとに「死」について考えることが多くなってくるのではないでしょうか。自分がいつ、どのような死に方をするのか。それは誰にもわかりません。それだけに、誰もが死に対していいようのない不安や怖れを抱くことにもなるのでしょう。

 曹洞宗建功寺住職の枡野俊明さんが『定命を生きる よく死ぬための禅作法』(小学館刊)を出版したのは、そうした時代の流れに背中を押されてのことだったといいます。「禅の教え、考え方には、“よく死ぬ”ためのヒントがたくさんあります」という枡野さんに、自著について語っていただきました。

***


枡野俊明さん

 まず、知っていただきたいのは人の一生の長さは、生まれたときから“定まっている”ということです。それを禅では「定命」といいます。当然、定命が長い人もいれば、短い人もいるわけですが、命の価値、人生の意味といってもいいと思いますが、それは長短にはまったくかかわりがないのです。

 それぞれが与えられた(ご先祖様からお預かりした)命をまっとうする。そこに命の価値があり、人生の意味もあるのです。この本でいちばん申し上げたかったのは、そのことですね。

 命をまっとうするとはどういうことかといえば、これはたったひとつのことに尽きるのです。こんな禅語があります。「即今、当処、自己」。今、その瞬間に、自分がいるその場所で、自分ができることを精いっぱいやっていく、というのがその意味ですが、これが禅の基本的な考え方といってもいいと思います。命をまっとうするというのは、まさしくそういうことです。

 誰もがいい人生を歩みたい、と思っているでしょう。別のいい方をすれば、よく生きたいと願っているわけです。もちろん、たくさんお金を稼いだり、社会的に高い地位を得たり、することがよく生きることではないですね。

 いつでも命をまっとうしていく。それがよく生きることですし、それ以外によく生きるすべはないのです。

 人はそれぞれのときをさまざまな環境で、また、いくつもの人間関係のなかで生きています。好ましい環境にあって、居心地のよい人間関係を結んでいる、というときもあるでしょうし、反対に思いにかなわない環境で、人間関係にも悩んでいる、というときもあると思います。

 後者にあるときには、ともすると、投げやりになったり、気力を失ったりしがちかもしれませんね。しかし、どんな状況にいるときでも、そこに自分ができることはあるはずですし、そのことを精いっぱいやることはできるのはありませんか。

 不遇に身を置くことがあったら、その不遇の自分で精いっぱい、病気になってしまったら、その病気の自分で精いっぱいやったらいいのです。つまずくことがあったら、その自分で、精いっぱいやれば、それでいい。

 どれもが命をまっとうしている姿です。十二分によく生きている人生です。定命が尽きるまで、そんな自分を連ねていく。この本では副題を「よく死ぬための禅作法」としましたが、人が最大限にできるのは“よく生きる”ことまでです。

 死については、常々こう申し上げています。

「よく生きたら、あとは放っておけばいいのです。おまかせしてしまえば、大丈夫、必ず、よい死がやってきますよ」

 禅の考え方はとてもシンプルです。この本で紹介している“よく生きるため(つまりは、よく死ぬため)”のヒントも、どれもがシンプルで、誰もが日常生活ですぐに実践できるものばかりです。一人でも多くの方に手にとっていただければ、筆者としてそれ以上の喜びも、感謝もありません。

***

 穏やかに澄みきった口調で語られる枡野さんの言葉の一つひとつが、胸の深部にしみ入ってくるかのようでした。「人生100年時代」の心の拠り所になる1冊という印象です。

吉村貴

小学館
2020年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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