「聞きたい。」局アナ山口豊さんが涙した「逆転のストーリー」初出版にチャレンジして伝えたかった「再エネ」の魅力とは?

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「再エネ大国 日本」への挑戦

『「再エネ大国 日本」への挑戦』

著者
山口豊 [著]/スーパーJチャンネル土曜取材班 [著]
出版社
山と渓谷社
ISBN
9784635310420
発売日
2020/02/13
価格
1,650円(税込)

「聞きたい。」局アナ山口豊さんが涙した「逆転のストーリー」初出版にチャレンジして伝えたかった「再エネ」の魅力とは?

[文] 岡山泰史(山と溪谷社・自然図書編集部)

ただでさえ忙しい「局アナ」という立ち場で、看板番組を2つもつテレ朝のアナウンサー、山口豊さん。わずか4ヶ月間で300ページ近くを書き下ろした本のテーマは「再生可能エネルギー」。ソーラー、地熱、水力、風力などの発電事業が、地域に豊かさをもたらし、人口減少に歯止めがかかり、自然も豊かになるというドキュメンタリーです。『「再エネ大国 日本」への挑戦』というタイトルに込めたメッセージをお聞きした。

一歩を踏み出す勇気


各国・各地の災害現場からのレポートを重ねた経験が、今回の出版に繋がった

――初の本を出版されて、いまどんなお気持ちですか?

 出してよかったですよ。いろんな意味で吹っ切れました。局アナって難しいんですよ。原稿を正しく読まなければいけないし、出すぎちゃいけないみたいなところもあるんですよね。

 ですけど、ほんと本を出してよかったなと思うのは、50を越えて現役もあと数年、「本当にこのままでいいんだろうか」という思いがずっとあって。

 人生、長いじゃないですか。引退して、退職金で……それは楽で夢のようだけど、生きがいや、追い求めてきた人生を歩みたいなと。そうすると、一歩踏み出さないといけないんじゃないかな、という気持ちがここ1、2年ありました。

 その中の一つに「書くことかな」とあるとき気づいて。テレビの報道ではわからなかった世界が広がりました。

書くことで、地方を応援したかった


再エネは電気を生むだけでなく、雇用創出やお金の循環にもつながるという

――執筆のきっかけを教えてください。

 元々は、2007年、「報道ステーション」の温暖化問題の特番取材でグリーンランドに行った頃から、日本や世界各地の災害現場を歩くなかで、取材に行くたびに「間違いなく、温暖化だ」と自分の中で確信したんです。なぜかというと、みんな同じこと言うんです。

「これまで降ったことがない雨だった」
「経験したことがない」

 今まで自然災害が起きていないところで、温暖化の被害に遭っていたのです。 そういうなかでも、地域の人が生き残ってほしいじゃないですか。ここ十年の間に人口減少社会が始まり、地方を応援したい思いはずっとあったんです。地方が好きになっちゃったんですね、取材して歩いている間に。

 そうこうするうちに「東日本大震災」があって、復興がなかなか進まないなか、2017年に、再エネ100%を目指している福島県の姿を知りました。

――他にも影響を受けた人がいるそうですね。

 ちょうどそのとき、元首相の小泉純一郎さんとお話をする機会があり、「自然エネルギーを目指す社会」への情熱を聞かされました。またちょうどNHKエンタープライズのプロデューサー堅達京子さんが作ったNHKスペシャル『脱炭素革命の衝撃』を見たのです。

 あの特集がすごかったのは、海外では気候変動と経済の動きを絡めて問題にしていて、「パリ協定」以降、気候変動だ、暑い、おかしいとみんな思っていたんだけど、それまではどこか他人事だった話が、僕の中では初めて、温暖化と経済が結びついた。「これは絶対、世の中変わるな!」と直感したのです。

地方再生・復興の処方箋としての「再エネ」


岡山県西粟倉村の木質チップボイラー。地域再生の起爆剤となっている

――「再エネ」が地方の再生・復興の処方箋になると。解説していただけますか?

 化石燃料の時代に、高度経済成長を支えたのが大規模集中型のエネルギーでした。同時に人もお金も都市に集中しました。それが限界にきていると。大量生産、大量消費の限界を迎えていると思うんですね。

 足元を見つめなおすとき、僕は一番象徴的なのは「森」だと思ってるんです。なぜなら日本の7割が森で、そのうち4割が針葉樹のスギやヒノキです。

 先代、先々代が植えて、それが今ほったらかしになっていて、売れないからという理由だけで使ってない。ところが、それも今までの発想では売れなかっただけで、視点を変えればお金になるんですね。その象徴が「再生可能エネルギー」なんです。

 放置された間伐材は、そのままでは価値は「ゼロ円」ですが、再生可能エネルギーの場合、燃料代としてトンあたり数千円の価値になるんですね。それが電気を生み、さらに売られてお金になり、しかもそれが地域を十分にまかなうだけのエネルギーを生んで、電気の輸出もできる! 凄いことですよね。

 何もないと言われていた地方が、「現代の油田」を抱えている。豊かな社会になる「大逆転劇」で、これこそパラダイムシフトだと思うんです。

 近い将来、「地方に帰ろう」運動が起きるのではないかと思っていて。そこに「宝」があるぞと。暮らしやすく、自然の中でストレスもないし、少子化も解消する。全てがうまくいくんじゃないかと思っています。

――5G時代、テレワークもできます。

 どこかに集まって情報を取る必要もないし、毎日の通勤も不要になる時代が近づいています。

 むしろ地方にいた方がのびのびできる社会になって、分散型になりますよ。

 僕が確信しているのは、国が動いてるから。経産省が力を入れていて、本気ですよね! 単なる理想論ではなく、国の資源とエネルギーを考えたときに、2018年7月に、再エネの主力電源化が謳われてから、流れが変わりました。

 さらにその流れを強めたのが、一昨年、昨年と2年連続の台風・豪雨だったんですよ。そう考えると、怖いほど、全部つながってくる。だからこれは時代の流れなんですね。そう確信しています。

時代は変わると確信している。否定する理由は何もない。


福島の土湯温泉では、地熱発電が年1億の利益を生み、観光資源にもなった

――足で歩いて取材を重ねるたびに、腹に落ちていったわけですね。

 この本にも出てきますけど、立命館大学のラウパッハ教授が言うように、日本は縦割りで、法律も遅れ、銀行融資も付きづらい。並大抵の行動力ではできません。だから、どの村もどんどん衰える一方です。

 そうやって追い込まれた中で、土湯温泉(福島市)の加藤さん、石徹白(岐阜県郡上市)の平野さん、真庭(岡山県)の中島社長などのように、「これじゃだめだ!立ち上がらないと」という人が現れて、変わっていった。その芽が各地で出始めているんですよね。それも時代の変わり目だと思うんです。

――時代の変革者たちが、各地から出始めた訳ですね。

 不思議なんですけど、変革者たちが同時多発的に、お互い連絡を取り合うでもなく、たまたま出始めています。戦後同じ時代にスギを植え、同じように衰退していったなかで、各地で決断力、行動力ある人たちが現れ始めたんです。興味深いですよね。

――お金の流れを追っているのが、この本の面白いところです。

 これまでの発電事業は、富の還流先が資本家や大企業でした。ところが、再エネでは、地域や個人が対象です。

 富の循環が起こり、関係者すべてが豊かになる流れを作れているのが、もっとも大きな、画期的な違いです。

 この企画の構想段階から、お金の流れを循環させるという話があったのですが、いろいろと調べるに連れ、構造的な問題が見えてきました。

 それが化石燃料の輸入に支払う19兆円です。『キロワットアワー・イズ・マネー』(いしずえ出版)がすごいヒントになり、電気がお金になる話に触発されました。調べていくうちに、日本は化石燃料に頼ってるなー、19兆円は所得税と一緒じゃないかと気づきました。

 財務省にも取材し、だんだん確信が高まっていくうちに、地域循環共生圏のコンセプトを語る、環境省の岡野隆宏さんのインタビュー記事を読み、衝撃を受けました。それで「国も同じことを考えてるんだな。間違ってないんだな」と確信しました。

仮説を確信した瞬間

――数十人へのインタビューを通して、何が見えてきましたか?

 最初は危機感や、先の見えなさ、人口減少社会への道筋、台風への危機感でした。でも、やがて処方箋が見えてきた。徐々に明るい未来像が持てたのです。

 地方創生というと、これまでインバウンド一辺倒でした。確かにそれも一つの道ですが、リスキーな面もある。中国発の感染症が始まった時、すごく打撃を受けているし、この度の外交トラブルで韓国人も来なくなった。今大問題になっていて、地方に人がいなくなっている。底上げされていたのがふっといなくなった。

 本当は再エネが先ではないかと思うのです。元々ある自然を活かすので、地に足がついています。安定してお金も入る「分散型」の方が、これからの時代に合っていますよね。

――あえて印象に残っている人を一人選ぶとしたら?

 西粟倉村の木薫という林業と家具製造会社の社長、國里哲也さんです。この人がいなければ、年間計15億円の売上を誇る34社のベンチャー企業も、またそのベンチャー起業家を育てる西粟倉村のカルチャーもありえなかったでしょうね。

 資本金10万円から始めた國里さんの会社は3億円の売り上げを生み、村のベンチャー企業全体で15億円です。村を蘇らせた最大のヒーローの一人が、この人なんです。このチャレンジがなければ、山が崩壊して、人口も減って、何かが終わっていたかもしれません。この人の、林業や地域に対する言葉を読んでいると、自分の本なのに、不思議と涙が出てしまうんですよね(笑)。

――書くことを通じて、ご自身も変わりましたか?

 社会貢献しようと。自分の殻も破りました。

「けっこう言うようになったよね」って仲間からも言われました。不思議なもので、忖度社会はメディアにもまかり通っていると感じています。

 これは誰かが断ち切らないと。お互いがお互いに気をかけるのは、ある意味素晴らしいのですが、忖度社会がまずいのだとすれば、言うことを言っていかないと良くならないですよね。

山と溪谷社
2020年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

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