ルードルフ・オットー 宗教学の原点 澤井義次著 慶応義塾大学出版会

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ルードルフ・オットー 宗教学の原点

『ルードルフ・オットー 宗教学の原点』

著者
澤井 義次 [著]
出版社
慶應義塾大学出版会
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784766426458
発売日
2019/12/19
価格
3,850円(税込)

書籍情報:openBD

ルードルフ・オットー 宗教学の原点 澤井義次著 慶応義塾大学出版会

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 宗教の根源が何なのかは誰でも気になる。宗教現象学は人間の精神に現れる宗教の姿を探求する。その原点にあるのがオットー(1869~1937)の『聖なるもの』という古典的名著だ。彼の思想の全貌(ぜんぼう)を伝える解説書が出版された。

 オットーは聖なるものの中核に非合理性を見出(みいだ)し、それを「ヌミノーゼ」という語で表現した。恐ろしさに身の竦(すく)む感じ、不気味な禍々(まがまが)しさ、何だか分からないが、圧倒される感じだ。誰でも感じる身近なものだろう。戦慄(せんりつ)させるが魅(み)するもの、撥(は)ねつけるが同時に惹(ひ)きつけるもの、対立し矛盾する感覚の並存こそ、聖なるものの中心である。この事象に関する精緻(せいち)で豊かで具体的な記述こそ、オットーの著書の圧巻部分だ。

 自己自身がちっぽけに感じられ無へ沈み消えていく感情は、「被造物感情」と語られる。自分が卑小なものと感じられるがゆえに、人は大いなるものに向かうのだ。聖なるものは、語りえぬもので、絶対的到達不可能性を有しているなど、心に響く様々な表現で記述している。宗教現象に接する人間精神の描写は鮮やかだ。

 オットーは、プロテスタントの神学者の側面に注目がなされてきたが、それに尽きるわけではない。彼の研究は、インドの宗教に出会って、様々な諸宗教を貫くものに開眼したところに起源がある。オットーのインドでの研究の様子を、澤井氏の本書は詳しく分かりやすく示している。

 オットーの著書は、キリスト教信仰や宗教的世界観が揺らいでいる状況で、宗教者としての不安に発していたのだが、彼の心はアジアへの旅を通じて、普遍的な宗教性の発見に至る。神秘主義の本質と非合理性をどのように学問的に分析するのか、に辿(たど)り着く。その描写は感動的だ。

 オットーの基本思想を辿ることは、宗教学の基本を学ぶことでもある。現在世界中で宗教観の対立から様々な紛争が起こり続けているが、人間歴史の根底を見つめるためにも重要な本だ。

読売新聞
2020年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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