『移民の経済学』
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利害・信条抜きで移民問題を考える
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
働き方改革とやらが始まるずっと前から、この国では働く人革命が進んできてまして、波は工事現場や工場、酒場、コンビニと着実に拡がり、今や在留外国人は280万人超。幻想の単一民族国家はすでに世界4位の移民大国です。
バブル期以降、買い叩ける労働力が足りないと産業界に泣きつかれるたび、日系人だ技能実習生だバイト漬け留学生だと、対症療法を小出し&なし崩しに続けてきた結果がこれ。移民鎖国の建前を捨ててもいなければ、門戸開放の是非が大きな議論になってもいないのが、おかしくて怖いところながら、人手不足は加速拡大するわ、去年スタートの特定技能枠は不人気だわで、そろそろ火が点きますよ、移民問題。
にもかかわらず、このテーマについて考えるヒントも議論の土台も貧弱なのは、声高に語るのが損得勘定の人かイデオロギーの人ばかりだったから。そこにようやく出てきたのがこの『移民の経済学』で、著者の友原章典は米国での研究歴が長い経済学者。ニッポン国内の経済政治社会その他いろいろの利害や信条から距離を置き、国内外の専門家たちのさまざまな調査・分析を淡々と教えてくれる。
立案提言の書ではなく、紹介される移民政策の研究の多さと評価の多様さは戸惑うほどだけれど、「瑞穂の国の移民政策、かくあるべし!」という単純で勇ましい断言が今後続出してきても、すべて眉唾モノだと即断できるようになるのが、読者の特典です。