「させていただきました」はムダな敬語。シンプルに伝わる文章のダイエット

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言葉ダイエット

『言葉ダイエット』

著者
橋口幸生 [著]
出版社
宣伝会議
ISBN
9784883354801
発売日
2019/12/27
価格
1,650円(税込)

「させていただきました」はムダな敬語。シンプルに伝わる文章のダイエット

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「企画書やメールを読みやすく書きたい」と思っていながらも、なかなかうまくいかないとお悩みの方も少なくないのではないはず。

そこでご紹介したいのが、電通のコピーライターが読みやすい文章の書き方を明かした『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』(橋口幸生 著、宣伝会議)です。

文章が読みにくい理由は、ただひとつ。「書きすぎ」です。

伝えたい内容をあれもこれも詰め込みすぎてしまい、言葉に贅肉がつきパフォーマンスが悪化。読みにくくなってしまうのです。(「この本について」より)

そのためにすべきことは、いたってシンプル。つまり、不要な贅肉を落とせばいいだけ。

つまりそれが、「言葉ダイエット」だということです。

そのような考え方を軸とした本書のなかから、きょうは第2章「言葉ダイエットで、短く書こう」のなかから「ムダな敬語禁止」に焦点を当ててみたいと思います。

「させていただきました」の裏側にある心理

ネット上などさまざまな場面で、「させていただきました」という表現を目にすることがあります

「担当させていただいた商品で、社長賞を受賞させていただきました!」

「提案させていただいた企画について、ご相談させていただければ幸いです」

「私事ではありますが、かねてよりお付き合いさせていただいていたお笑い芸人の山田太郎さんと入籍させていただいたことを、ご報告させていただきます」

(38ページより)

たとえば、このような感じ。こうした“させていただいた症候群”の背景にあるのは、「主張はしたいけど、嫌われたくない」という心理なのだとか。

嫌なことを伝えなければならないときなどには、少しでも衝撃を和らげようとつい敬語を重ねてしまうわけです。

ところで著者はここで、ひとつの例文を取り上げています。

読むにあたっては、「あなたが提案した企画を、クライアントの現場担当者は大絶賛。

ぜひやろう! と盛り上がったものの、数日後、重い雰囲気のメールが届いた」というシチュエーションを想定してほしいそうです。

From:山田山雄

To:海口海彦

件名:先日ご提案いただいた案件のお戻しにつきまして

先日ご提案いただいた企画について、正式にお戻しの方をさせていただきたいと思います。

その後、企画を社長に上げたところ、方向性や考え方は概ね問題ないものの、企画内容につきましてあらためてご検討・ご相談させていただきたいと考えております。

社長からの指示につき、基本的には、社長の意見に、私ども現場としても同じ方向を向かうことを考えさせていただいておりますが、私ども現場としても、この企画にこだわりを持っておりましたので、修正をご提案いただく際に、修正後の説明も、社長からのネガテイブがありながらも、いつも通りポジティブな方向で、丁寧にご対応いただけると助かります。(39~40ページより)

これは著者が実際に受け取ったメールをもとにつくった例文だといいますが、まったく意味がわかりません。

よくよく読めば「現場がOKを出した企画に、社長がNGを出した」という意味だとわかるものの、余計な要素が多すぎるわけです。

書き手のなかに、「伝えにくい内容を、失礼のないように遠回しに表現しよう」という意図があることは明らか

一見すると紳士的な態度であるようにも思えますが、こういう人は仕事より、自分が嫌われないことを優先しているのだと著者は指摘しています。

むしろ、トラブル時こそ単刀直入にいくべきだとも。

無駄を省いてダイエット

BEFORE:ダイエット前

❶先日ご提案いただいた企画について、正式にお戻しの方をさせていただきたいと思います。

❷その後、企画を社長に上げたところ、方向性は概ね問題ないものの、企画内容につきましてあらためてご検討・ご相談させていただきたいと考えております。

AFTER:ダイエット後

誠に申し訳ありません。先日OKを出した企画に、社長からNGが出てしまいました。

(以上、40ページより)

❶は伝えにくい本題を切り出す前の、クッションとして入れられた文章。

しかし長すぎるので、「誠に申し訳ありません」とシンプルに謝罪したほうがわかりやすく、真摯な気持ちが伝わるといいます。

❷は社長からNGが出たことを、遠回しに表現したもの。

伝えにくいことをボカすために「ご相談させてください」という表現を使う人は少なくありませんが、これは読み手に誤解を与えかねない危険な表現。

交渉の余地なくNGの判断が出たのなら、「ご相談」などとごまかさず、はっきり書くべきだということです。

BEFORE:ダイエット前

❸社長からの指示につき、基本的には、社長の意見に、私ども現場としても同じ方向を向かうことを考えさせていただいておりますが、私ども現場としても、この企画にこだわりを持っておりましたので、

❹修正をご提案いただく際に、修正後の説明も、社長からのネガテイブがありながらも、いつも通りポジティブな方向で、丁寧にご対応いただけると助かります。

AFTER:ダイエット後
恐縮ですが、再提案をいただけないでしょうか。

(以上、41ページより)

❸が伝えているのは、「社長からのNGを、現場としては不本意に思っている」ということ。早い話が、自分のメンツを保つために入れられた文章であるわけです。

しかしこれは、「恐縮ですが」という潔い表現に短縮したほうが文章は簡潔になります。

❹は遠回しは再提案依頼なので、単刀直入な表現に置き換えるべき。

なお、「先日ご提案いただいた案件のお戻しにつきまして」という件名も長すぎるので、スマホで見る場合を考慮し、可能な限り短くしたほうがいいそうです。

AFTER:ダイエット後 全文
From:山田山雄 To:海口海彦

件名:先日のご提案について * 誠に申し訳ありません。先日OKを出した企画に、社長からNGが出てしまいました。恐縮ですが、再提案をいただけないでしょうか。(42ページより)

279文字から61文字へ、大幅なダイエットに成功。相手に申し訳ない想いを伝える表現は、「誠に申し訳ありません」「恐縮ですが」の2つだけ。

これでも充分に伝わるわけです。(38ページより)

「慇懃無礼」ということばのとおり、ていねいすぎると、かえって感じが悪くなるもの。

伝えにくい内容こそ、短く読みやすい文章にすることが相手への礼儀」だという著者の主張は、意識しておくべきことなのではないでしょうか?

Photo: 印南敦史

Source: 宣伝会議

メディアジーン lifehacker
2020年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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