小・中学生を夢中にさせ続けて10周年! 累計120万部の「怪盗レッド」シリーズに、オトナ版の単行本が登場! 発売記念著者インタビュー

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小・中学生を夢中にさせ続けて10周年! 累計120万部の「怪盗レッド」シリーズに、オトナ版の単行本が登場! 発売記念著者インタビュー

[文] カドブン

角川つばさ文庫をご存じだろうか?
今、20歳前後の読者なら、かつて夢中で読みふけったという記憶のある方もいるだろう。
2009年に創刊されて以来、圧倒的に支持されている児童文庫のトップレーベルだ。
現在でも、あの『ぼくらの七日間戦争』の宗田理氏が「ぼくら」シリーズの新刊を毎年出している(!)ことでも知られる。

その角川つばさ文庫で、創刊以来続く、ロングシリーズがある。
それが「怪盗レッド」だ。
累計120万部を超える同作の、シリーズ10周年を記念して発売されるのが、初の単行本『怪盗レッド THE FIRST ここから、すべては始まった』だ。
単行本の発売を記念して、著者である秋木真(あきぎ・しん)さんに話をうかがった。

■10年経って、オトナになった“昔からのファン”へのプレゼント

――「怪盗レッド」シリーズ10周年おめでとうございます。児童文庫で10年続いている作品というのは少ないのではありませんか?

秋木:ありがとうございます。

 累計120万部といっても、「怪盗レッド」はカドブン読者のうち、20歳より上の方には、ほとんど認知されていない作品ではないかと思うので、ご紹介いただけて、ありがたいです。

 その代わり、20歳以下の方なら、名前くらいはきっと知っていてくれると思うのですが。

 そうですね、児童文庫でのロングシリーズというのは、それほど多くありません。

 なぜかというと児童文庫の特徴が「読者が定期的に入れ替わっていく」ことだからだと思います。

 小学3~4年生くらいで、学校の「朝の読書」などをきっかけに手に取ってくれた子が、だいたい小学校卒業あたりから中学生くらいでに、次第に遠ざかっていく。それが、児童文庫のスタンダードな読まれ方でしょう。

 といって、その子たちがまったく本を読まなくなるわけではなくて、ライトノベルや一般文芸作品などの新しいジャンルと出会って、読書を引き続き楽しんでくれていると思いますが。

 そうした中で、シリーズを10年も続けてこられた理由は、1つには、毎年3~4年生になる子どもが手に取ってくれたということ。そしてもう1つは、次第にオトナになっていく読者が、途中で読むのをやめずに、「怪盗レッド」をずっと追いかけてくれたからです。それが、とてもありがたくて。

「怪盗レッド」10周年記念に、読者のみなさんへの感謝をこめて何か企画しようと、担当編集者と相談していたとき、一番大切に考えたのがそこでした。

 つい最近、読み始めた小学生から、シリーズ初期から読み続けてくれている20歳前後の方まで、みんなに喜んでもらいたい。

 そう考えて、Twitter上で特設アカウントを作り、キャラクター人気投票や、イラスト投稿などの企画を行いました。

小・中学生を夢中にさせ続けて10周年! 累計120万部の「怪盗レッド」シリ...

 それから、ヨメルバ(https://yomeruba.com/)で書き下ろしの短編連載、そして、10周年記念企画の集大成として刊行するのが、この単行本『怪盗レッド THE FIRST ここから、すべては始まった』です。

小・中学生を夢中にさせ続けて10周年! 累計120万部の「怪盗レッド」シリ...

――そもそも秋木さんが、児童書を書こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

秋木:もともとは、大人向けの作品を、趣味で書いていました。ただ、専門学校に通っていたとき、有名な童話作家の方の授業を受けたことをきっかけに、児童書を書くようになりました。

 教えていただいたというのに、「童話」を書くのは、僕はあまり得意ではないのですが……でも「子どもに向けて物語を書く」ということの心構えを、たくさん教えていただきました。

 たとえば「児童書」とは「大人の本を幼くしたものではない」ということ。また「大人が子どもに言いたいことを伝えるための媒体ではない」ということ。それは今でも執筆時に大切にしていることです。

――児童書を書く醍醐味とは、なんでしょうか?

秋木:児童書は、1人の読者の一生の中で、つきあう時間が長いとは言えないジャンルです。

 ですが、子どものころに感じる「読書のワクワク感」は、大人になってしまうとなかなか味わえないほどの、深い感銘を受けるものだと思っています。

 子どもが子どもでいられるのは、ごく短い時間です。その短い間に「全身でひたりたいと思ってもらえるような物語を作る」というのが、児童書を書く醍醐味だと思います。

 子どものころに読んだ本は、たとえタイトルや作者名は忘れてしまっても、ストーリーやシーンの一部、イラストの一部などを記憶していますよね。

 それだけ影響があるものを書くということは、作者としてはなによりも悩ましく、そして楽しいことだと思います。

――今回の『怪盗レッド THE FIRST ここから、すべては始まった』は、シリーズ初の単行本ですが。

秋木:角川つばさ文庫で「怪盗レッド」を始めたときには、だいたい3~4年くらいで完結させることになるだろうと思っていたのに、たくさんの読者が、自身はオトナになりかけていても、「怪盗レッド」の登場人物たちを好きでいて、彼らの冒険が楽しみだと言ってくれています。

 10周年に記念の本を作るなら、読み続けてくれている彼ら/彼女らの想いに応えられるものを書きたい、そして、今の自分なら書けるんじゃないかと思ったのが、この本を書いたきっかけです。

 角川つばさ文庫の担当編集者に相談したときに、「それならつばさ文庫ではなく、大人でも手に取りやすい単行本にしましょう」と提案されて、実現しました。

 * * * * *

ここで角川つばさ文庫の「怪盗レッド」シリーズをご紹介しておく。
主人公は、中学1年生の少女アスカと少年ケイ。
2人は、父親が兄弟の、同い年のいとこ同士だ。
ある日、2人は父たちから、こう告げられる。
「明日から、お前たちに『怪盗』をやってもらう」
2人の父は「正義の怪盗」として日本中に名をとどろかせる「怪盗レッド」だというのだ。
その怪盗レッドを、アスカとケイの2人で引き継げ――と言われて……。
運動神経抜群の少女アスカが、アクションやバトルなどを行う「実行担当」。
そして、作戦立案とインカムを通じての「ナビ担当」が、天才少年のケイ。
この2人のキャラクターが、当時の児童書としては新鮮だったことが、人気のポイントでもある。

怪盗レッド(5) レッド、誘拐される☆の巻
怪盗レッド(5) レッド、誘拐される☆の巻

怪盗レッド(8) からくり館から、大脱出☆の巻
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――「怪盗レッド」が、10年間も読者を惹きつけているのはどうしてだと思いますか?

秋木:実は「怪盗レッド」は、企画から実際に本が出るまでに、丸2年くらいかかっているんです。

 その間、担当編集者から一番しつこく言われたのは「キャラクターを固めること」でした。

 アスカには「男子読者と女子読者の両方から、圧倒的に好かれ、憧れられるキャラクターでいること」。

 ケイには「男性キャラクターの“新しいかっこよさ”を体現すること」。

 ケイはアスカよりも身長が低いし、活動的でもありません。でも「かっこいい」。

 アスカとケイが、色々な意味で「対等」で、互いに背中を預けられる「唯一の相棒」であること。

「男女のコンビ」を描くと、恋愛に発展することを期待する声をいただくのですが、2人にはずっと「最高の相棒」でいてほしいと思っています。

 そんな2人だから、読者のみなさんにずっと好きでいてもらえているのかなと思っています。

 実は、ずいぶん後になってから言われたのですが、アスカという名前を僕が提案したとき、担当編集者は内心で少したじろいだそうです。

 というのは、「飛鳥=鳳凰」というのはKADOKAWAの会社マークにもなっている伝統的なシンボルで、同じ名前の雑誌もあるほどなんですよね。そして、アスカの父親である「翼」はつばさ文庫の名前と同じ。これは、会社やレーベルの名にふさわしいシリーズにしなくては! と思ったのだそうです。

 当時はプレッシャーになるからと、僕には伝えなかったそうですが(笑)。

秋木:10年、ファンを惹きつけているポイントというと、もう1つ大きいのはやはり、イラストレーターのしゅーさんの存在だと思います。

 10年前、1巻のカバーイラストを見た瞬間に、まずは僕自身が惚れ込んでしまいました。この10年、絵柄は変わりつつも、フレッシュな魅力を維持していて、新刊が出るたびに、カバーや挿絵を一番楽しみにしているのは僕かもしれません。

 少年少女のキャラクターのかわいらしさやかっこよさはもちろん、いかつい大人や、うさん臭い大人など、どんな登場人物を登場させても、僕の予想を超えるキャラクターデザインをしてくださいます。

 担当編集者に次いで「2番目の読者」である、しゅーさんに楽しんでもらいたい、といつも思って書いています。

 しゅーさんの絵が、シリーズの推進力だということは間違いないですね。

――今回の単行本『怪盗レッド THE FIRST ここから、すべては始まった』は、アスカとケイのお父さんたちを主人公とした物語ですね。

秋木:アスカとケイは、物語の初めから「2代目」としてスタートしました。

「初代・怪盗レッド」の存在は、シリーズ中にしばしば出ているので、いずれ書けたらとは思っていたんです。

 今回、「大人向けの『怪盗レッド』を書く」と考えたときに、ごく自然に初代である翼と圭一郎が主役として上がってきました。

 そして実際に書いてみると、「『怪盗レッド』のスピンアウト小説」というよりは、『怪盗レッド THE FIRST』という名前の新シリーズというべきものになりました。

 角川つばさ文庫の「怪盗レッド」は、実行担当のアスカという少女が視点人物です。

 ですが、今回の『怪盗レッド THE FIRST』では、ナビ役である圭一郎が、主人公になっています。

「2代目」のレッドは、最初から実行/ナビが分業されていて、「悪党からしか、盗みは働かない」という怪盗としての理念も、先代から受け継いでいます。

 が、「初代」である圭一郎たちは、まず、その筋道から探さなければならない。そこが「初代」ならではのおもしろみではないかと思います。

 また、時代も「2代目」のときからさかのぼり、科学技術も今ほどは発達していない時代なので、ナビの圭一郎も、活動の現場に同行しています。

 そういった意味でも、「初代」には「2代目」とは、またちがったチームワークとドラマが生まれ、より王道的なチームになっていると思います。

――実際に本を手に取ってみて、いかがですか?

秋木:なにより「この表紙絵を見てください」という気持ちです。拡大して、ポスターとして部屋に飾ろうかなと思うぐらい、気に入っています。

 しゅーさんのイラストだけでもかっこよかったのですが、それをさらにブックデザイナーさんが、大人っぽく仕上げてくださいました。単行本でしかできない造本で、ていねいに作品を包んでもらえたという気がします。

――それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

秋木:「怪盗レッド」が10周年を迎えられたのは、本当に、読者のみなさん1人1人の応援のおかげです。10周年記念企画におつきあいいただいたみなさんの応援コメントやイラストには励まされましたし、背筋が伸びるような気持ちになりました。

 このインタビューを目にして「怪盗レッドって久々に名前を聞いた」と、なつかしく思い出してくれる人がいたら、再会の機会があったことに感謝します。

 もしもよければ、圭一郎の、そしてアスカたちの最新の冒険も読んでみてください。

 通常よりも多い試し読みができます。(BOOK☆WALKER)

 これからも、「怪盗レッド」は続きます。6月に角川つばさ文庫から出る新刊、18巻では、「第3シーズン」の始動を感じさせる展開になっています。また、ここ数巻は事件続きでしたが、18巻では学園パートも多く入れたいと思っています。

 学園、事件、謎と、もりだくさんの内容で、自分でも楽しみながら、執筆を進めているところです。

 また、みなさんにお会いすることができたら、とてもうれしいです。

KADOKAWA カドブン
2020年3月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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