国民食の履歴書 魚柄仁之助著 青弓社

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国民食の履歴書

『国民食の履歴書』

著者
魚柄 仁之助 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784787220875
発売日
2020/01/24
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

国民食の履歴書 魚柄仁之助著 青弓社

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 ページをめくると、広告図版が目に飛び込んできた。1926年新発売の「ダンス印マヨネーズソース」(「婦女界」)。モダンな衣装のバレリーナがポーズを決める。ベルリン五輪が開催された36年には「スポーツマン印マヨネーズ」(「料理の友」)、太平洋戦争直近の「キユーピーマヨネーズ」では、愛らしいキューピーさんが「節米にポテトサラダを召上れ」と誘う。マヨネーズは、明治の日本に入ってきた舶来調味料。憧れの調味料に多くの日本独自のレシピが紹介されたが、作り方が難しいため、大正時代にはすでに既製品が販売されていた。

 本書は膨大な資料を基に、「カレー」「マヨネーズ」「ソース」「餃子(ギョーザ)」「肉じゃが」を各章立てにし、「日本人の国民食」としての来歴を記す。膨大な資料とは、文明開化期からの料理本や家庭雑誌。まず、これらの変遷の考察が興味深い。明治時代は、堅い文語調で主に男性職業料理人を対象に書かれていた。大正から昭和の戦前になると、経済的にゆとりがある都会女性が対象に。そして、戦中・戦後は、食糧統制下で「飢えないための」料理が中心となる。その後「婦人雑誌の付録料理本」全盛期を経て、75年以降マスコミで顔が売れた有名料理人の名前を冠した本が出回るようになった。

 読んでいるうちに、著者の資料収集に参加しているような気持ちになり、「作ってみました」と当時のレシピで試作した結果が示されると「待ってました」と声をかけたくなる。

 「焼き餃子は、戦後日本人が始めた調理法だった」「肉じゃがはおふくろの味伝説」。こうしたある種の通説を、丁寧に資料をひもときながら見事に覆し、さらに通説の所以(ゆえん)を考察する。親しみ易(やす)いテーマを、他の追随を許さぬレベルで緻密(ちみつ)に研究し、わかりやすく読ませる。本書を読むと<よく言えば工夫を凝らし、悪く言えば好き勝手に作っていた>かつての日本人が愛(いと)おしく思えてくるのではないだろうか。

読売新聞
2020年3月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加