日々の子どもたち あるいは366篇の世界史 エドゥアルド・ガレアーノ著 岩波書店

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日々の子どもたち

『日々の子どもたち』

著者
エドゥアルド・ガレアーノ [著]/久野 量一 [訳]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784000245401
発売日
2019/12/14
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

日々の子どもたち あるいは366篇の世界史 エドゥアルド・ガレアーノ著 岩波書店

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 ジュンク堂書店京都店の3階へ上がると、「岩波書店新刊」という棚があった。そこに白く、上品な装丁の本を見つけた。海外の作家に疎い私は、ここで初めて本書の存在を知った。

 副題が示すように、閏(うるう)日を含む1年366日ごとに、その日は世界史上で何が起きた日であるのかが簡潔に綴(つづ)られる。ただし、著者・ガレアーノが記すのは、年表に載る出来事ではなく、そこからこぼれ落ちたものたちだ。

 たとえば今日、3月1日は、「エリサ・リンチは爪で墓を掘っていた」と始まる。彼女はパラグアイ共和国第2代大統領の妻で、夫は1870年のこの日、戦死した。だから「爪で墓を掘っていた」のだ。このように、本書が記すのは、打ち負かされ、征服され、収奪され、隠蔽(いんぺい)され、忘却されてきた人たちの日々だ。

 著者が描く世界史には、人間がおこなってきた蛮行が綴られてゆくが、希望も描かれる。たとえば、1月28日。読み書きのできなかったカール大帝が「ヨーロッパで最も素晴らしい図書館を建てた」とあり、この日には「きみが世界を読むために」と題がつけられている。

 世界を読むためには、言葉が必要だ。人々が忘却した歴史をガレアーノは書き綴り、5年前の4月13日に亡くなった。本書を読んでいるうちに、著者からバトンを受け取ったような気持ちになる。わたしが知ることのできた風景はこうして書き綴った、だから、わたしが見ることのできなかった風景を、あなたたちが書き綴ってくれ――そんなふうに著者が語りかける声が聴こえるようだ。訳者あとがきにあるように、現在を生きるわたしたちは皆、過去から生まれた“日々の子どもたち”である。

 昨日、2020年2月29日。この日、私が『日々の子どもたち』と出会ったジュンク堂書店京都店は32年の歴史に幕を下ろした。その店と棚とを、私はこの本の出会いとともに記憶する。久野量一訳。

 <注>原題は「Los hijos de los di´as」です。

読売新聞
2020年3月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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