クリーンミート 培養肉が世界を変える ポール・シャピロ著

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クリーンミート

『クリーンミート』

著者
ポール・シャピロ [著]/ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/鈴木 素子 [訳]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784822288617
発売日
2020/01/10
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

クリーンミート 培養肉が世界を変える ポール・シャピロ著

[レビュアー] 石浦章一(同志社大特別客員教授)

◆環境に優しいと言うが

 アメリカ人のハンバーガー好きは筋金入りである。特にファストフードは、低所得者よりも高所得者がよく食べているそうだ。そのアメリカに衝撃が走っている。主役は「クリーンミート」だが、よく似た「フェイクミート」との区別を皆さん、ご存じだろうか。前者は動物の肉を培養したものに対して、後者は大豆が主体の植物性タンパク質に肉の風味を添加したものである。本書は、動物肉を試験管内で増やす「細胞農業」のスタートアップ状況を紹介したもので、試験管内で作る動物製品を巡る熱い闘いを紹介したノンフィクションである。またこれに群がる投資家たちの動向も興味深い。

 この新しい製品の売れ行きを左右するのはネーミングだ。「試験管ミート」「合成肉」「培養肉」などいろいろ候補が挙がったが、最終的に「クリーンミート」に落ち着いたのは、動物を殺すことなく環境にやさしいという意味が込められているからである。

 問題のひとつは、クリーンミートが行きわたることによって産業構造が全く変わる恐れがあることである。畜産業がなくなれば、えさの植物(大豆、トウモロコシ)が必要なくなり、流通形態も大きく変わる。肉がクリーンミートに代わるのを最も恐れているのが大豆農家だというから驚きだ。大豆の最大の顧客が畜産業界だからである。もし畜産が下火になれば、食肉への糞便(ふんべん)、抗生物質の混入や新型インフルエンザのパンデミック(世界的な大流行)がなくなるなどの利点もある。

 培養肉は、動物の肉と比較すると実は中身は同じではない。骨格筋細胞を培養すると胎児型タンパク質が発現し成人型にはならないので、はっきり味は違うはずである。また筋肉を培養するのに牛の胎児血清を使うが、かわいそうだからと血清抜きの人工培地にすると細胞の成長が遅れることがある。詳しい研究者がいたら、動物肉の「やみつき成分」を抽出してフェイクミートに混ぜるのが早道だということがわかるだろうが、残念ながらこの分野にはいないらしい。

(鈴木素子訳、日経BP発行、日経BPマーケティング発売・1980円)
動物愛護組織の「Compassion Over Killing」設立者。

◆もう1冊 

石川伸一著『「食べること」の進化史-培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』(光文社新書)

中日新聞 東京新聞
2020年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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