【聞きたい。】幡野広志さん 『なんで僕に聞くんだろう。』
[文] 加藤聖子
■がんも人生相談もリトマス紙
34歳のとき、現代の医学では治療法のない多発性骨髄腫(血液のがん)を発症した幡野広志さん。病を公表すると、人生相談が寄せられるようになった。毎日数十件、多いと100件ほどの相談の中から、週に1つ回答している人気連載をまとめたのが本書だ。
家庭のある人の子供を産みたい、自殺したい、子供を虐待してしまう-秘密や罪の告白のような相談も数多い。行き場のない悩みに対し、幡野さんはいつも正直な思いをつづり返している。
「人生相談って、回答者も嫌われたくないから美辞麗句を並べただけみたいなのが結構多いんですけど、そんな答えでは役に立たない。皆が腹の中で本当に思ってることを言わないと解決にならないですから」
がんになって感じるのは、病気を患うことも人の相談に答えることも、人間の本性が炙り出されるリトマス試験紙だということ。
「病気になると、本質的な部分が色濃くみえるようになる。相談に答えるのも一緒。人の本性を知りたければ、その人に人生相談をしてみるといいんです」
飄々(ひょうひょう)と取材に答える姿には病気感もなければ、相談への回答にブラックジョークを挟むこともしばしば。ただ、昨年も3度入院しており、そんなときは病身であることを実感すると語る。
「よく強いって言われるけど本当は真逆。僕の人生負け続けてますから」
弱さや辛苦を知る人ならではのたくましさ。悩める人はそこに惹(ひ)かれ、相談を送るのかもしれない。
今後は、機を見て終末期医療について何らか発信したいと意欲も見せる。
「がんになって、死に際のつらさがわかった。僕は死ぬまで好きなことをしていたいし、その方が残される家族の生きやすさにつながるんじゃないですかね」
この記事の写真は、幼い息子さんが撮ったもの。相談者を思う厳しくも温かい回答は、自身の心の結晶でもあり、息子へ贈る道しるべでもある。(幻冬舎・1500円+税)
加藤聖子
◇
【プロフィル】幡野広志
はたの ひろし 昭和58年、東京都生まれ。写真家。平成22年、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。著書に『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』など。