シリーズスタートより10年、堂場瞬一が「警視庁追跡捜査係」を語り尽くす!

インタビュー

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垂れ込み 警視庁追跡捜査係

『垂れ込み 警視庁追跡捜査係』

著者
堂場瞬一 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758443166
発売日
2020/01/15
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

堂場瞬一の世界

[文] 角川春樹事務所


堂場瞬一

「警視庁追跡捜査係」シリーズ第一作『交錯』が刊行されてから、今年で十年。未解決事件を追う、対照的な二人の刑事――「現場百回」をモットーとする昔気質の沖田と、冷静沈着を旨とし、調書や資料から事件を洗い出す西川――を軸に描かれてきた本シリーズの最新刊は『垂れ込み』。文字通り沖田のもとにかかってきた、十五年前の上野の殺人犯に関する通報から始まる。

今回は、サイコパスのような犯人を、さらに上回るような悪を設定しました

――被害者の山岡はどうして殺されたのか、その謎でラストまで一気に読んでしまいました。終盤に出てくる「本当に恐ろしい人間は、普通の人間として生きている」という沖田の言葉は、読後も深く響いてきます。

堂場瞬一(以下、堂場) そう読んでもらえれば、作者としては狙い通りです。事件を解決して終わるというのが、すっきりとした警察小説だと思うんですが、最近は、現実の事件でも“普通の人”の犯罪が増えていることもあり、ちょっと捻りを加えました。事件そのものの犯人は、サイコパスのようなキャラなので、そんなに説明しなくてもいい。この手の犯人の動機は、論理的な説明がなくても読者との約束の上では成立するのですが、今回は、その犯人を上回るような悪を設定したので、事件が解決しても、すっきりはしない。『暗い穴』から続いている“気持ち悪い路線”を本作も踏襲している感じでしょうか。

――『暗い穴』から路線が変わった?

堂場 きっかけは特にないんですが、『暗い穴』の前作の『刑事の絆』が「アナザーフェイス」シリーズ(文春文庫)とのコラボ企画だったんです。『刑事の絆』があまりにもストレートな熱血刑事ものだったので、その反動で(『暗い穴』は)ちょっとひねくれたものにしようかな、と。沖田と西川が普通の人間だからこそ、社会の捻れや闇をうまく浮かび上がらせることができるんじゃないか、というのもありました。特異な刑事と異常な犯人との対決にするとホラーになってしまう。あくまでも普通の刑事たちが普通に調べ上げてたどり着いた先が、社会の暗部を掬い取るような人だったというほうが、より暗い読後感になるのでは、という計算も若干あります。ただまぁ、それは後から考えたことで、『暗い穴』があんなダークな感じになるとは、僕自身も思っていませんでした。タイトル自体、ちょっと異質ですよね。スウェーデンの女性ミステリ作家が書きそうなタイトルで。

今は、沖田と西川のような、生活に根ざしたキャラが描きやすいです

――普通の人が怖い、というのは現実にも当てはまることなので、沖田と西川が健全であることは救いになっています。

堂場 沖田と西川をぶっ飛んだキャラにしてしまうと、八〇年代の刑事ドラマみたいになってしまうんですね。警察小説というのは時代によって変わっていくわけで。今は、刑事のキャラを前面に押し出した作品が多いようにも思うのですが、このシリーズに関しては、普通の刑事が普通に調べていって……という路線がもう少し続くかな、と思います。

――今回の犯人は、いわゆるサイコパスだったわけですが、ちょっと毛色が違いますね。

堂場 犯人の中では、ゲーム感覚に近い感じなんですよね。それはそれでまた異常なことではあるんですが。サイコパスというのは、終いには歯止めが効かなくなって暴走してしまい、そこから綻びが生じることが多いのだけど、本書の犯人は違うんですよね。そこもまた怖さではあるんですが。

――沖田と西川を“普通”のキャラにしようというのは、シリーズの最初から考えていたのですか?

堂場 僕自身、かつては鬱屈したキャラを描いてたこともありました。ちょっと過去を引きずって、その過去が今に影響を及ぼしている、というような。そのほうがキャラに深みが出るかな、と思ったりもしていたのですが、現実にはそういう人はほとんどいないじゃないですか。なので、普通でいいな、と。性格的には、沖田にも西川にも若干極端なところがあったりするんですが、こと生活者としてとか、仕事をする人間としては、ごく普通の、健全な人物像でいいのかな、と。そういう(健全な)キャラで、どこまで描けるのか、自分の中で試している、というところもあります。

――沖田と西川は、読者に近い存在だとも言えます。

堂場 もちろん、鬱屈したりぶっ飛んだりしたキャラで読ませる、というのもアリだと思うんです。過去に何かがあって、というのではなくて、いわゆる社会からはみ出してしまうような人間とか、ものすごい能力を持った人間とか、そういう主人公のキャラで読ませるタイプのもの。ただ、僕自身、歳を重ねていくごとに、その手のものは自分に合わないな、と感じてきたということがあります。今は、沖田と西川のような、生活に根ざしたキャラが描きやすいんですね。

――そんなふうに感じ始めたのはいつ頃からですか?

堂場 このシリーズと、「アナザーフェイス」シリーズを書き始めたあたりでしょうか。「アナザーフェイス」シリーズの主人公である大友はシングルファーザーという、日本の警察小説ではあまりない状況設定なんですが、基本的には彼も普通の人間です。まぁ、大友の場合はちょっと特殊な能力の持ち主ではあるんですが、基本的には突出したキャラではありません。頑張って生活もして子育てもして、そのために仕事においては自分がやりたい部署からは外れているけれど、それで良し、と。ワークライフバランスをライフのほうへ振った人、というだけのことで。沖田と西川は私生活に多少の問題を抱えながらも、ワークのほうが軸になっているんですが、別に警察官じゃなくても、一般企業にもこういう人間はいくらでもいそうだよね、というキャラです。ただ、二人がそういう普通の人間であるが故に、じゃあ、どこで読ませるのか、ということがこのシリーズでは常に問題になるところではあるんです。

今動いているシリーズは、全て世界観を一緒にしてあります

――「アナザーフェイス」シリーズの話が出たのでお聞きしたいのですが、『刑事の絆』の時のコラボのような企画は今後も考えていらっしゃいますか?

堂場 この「追跡捜査係」シリーズと「アナザーフェイス」シリーズは、一応世界観を一緒にしているんです。架空の警視庁の、それぞれ違う部署にいる、という設定です。この二つだけではなく、今動いているシリーズは、全て世界観を一緒にしてあります。だからそこでまたコラボすることがあっても、おかしくはない。あと、これはもうオープンにしていいと思うので話しますが、二〇二一年は僕のデビュー二十周年にあたるので、「追跡捜査係」と今出ている「ラストライン」(文春文庫)と「警視庁犯罪被害者支援課」(講談社文庫)の三シリーズの、乗り入れコラボをします。

――ビッグニュースが!

堂場 前回、「追跡捜査係」と「アナザーフェイス」のコラボでは、前編・後編みたいなスタイルにしたのですが、今回はそれぞれの登場人物を完全に入れ込んだものにします。今、その執筆準備をしているところです。

――ファンには堪らない企画ですが、堂場さんご自身は大変なのでは?

堂場 やや苦しい状況ではありますが(笑)、頑張ります。それぞれのシリーズの作品に、他のシリーズからゲストが入って、協力したり反発したりしながら物語が進んでいく。なので、全シリーズがそのまま全体でバディもの、みたいな感じになります。

――『垂れ込み』もそうですが、このシリーズでは、個々のキャラの細部にまで、堂場さんの目が行き届いている、と感じます。

堂場 沖田の恋人・響子や西川の妻は、準レギュラーキャラですよね。そういうキャラたちには血を通わせてあげたいし、ひょこっと出てきて、ひょっと消えてしまうというフラットな登場人物もいるのですが、彼らにも、爪痕くらいは残させてあげたいな、ということは毎回考えていますね。その他A、その他B、みたいな感じにはしたくないんです。出てくる人には全部、それなりに背景があるような書き方をしたい、と思っています。

――登場人物たちがどうなっていくのか知りたいというのも、読者が堂場さんのシリーズを手に取る大きな理由だと思います。

堂場 登場人物といえば、今回はラストにえぇっ!? というエピソードを入れたのですが、あれは実は次回作への伏線でもあるんです。ちょっと新しい人物を投入しようと考えていまして。

――また新たなニュース!

堂場 そうやって少しずつ動かしていこう、と。沖田と西川、主役の二人は不動ですが、周りのキャラはどんどん変えていって、最後には全く別物になっていく、という着地点のことを考えているんです。

――コラボ作品といい、登場人物の変化といい、読者は単独のシリーズというよりは、堂場さんの“世界”を楽しんでいる気がします。

堂場 そうであれば嬉しいですね。作者としては、“沼”に引きずりこむ感じでもあります(笑)。ファンタジーだと、出版社の違うシリーズで世界観を同じにして物語をどんどん広げていく「世界の構築」というのは割とあるんですが、ミステリではあまりない。その意味では、書いている側としても面白いですね。

――今後も、このシリーズからは目が離せません。

堂場 登場人物たちをどんなふうに異動させて動かしていくか、そのことはいつも考えています。その意味では、僕自身が、彼らのいる架空の警視庁の、人事二課といった気分です。

インタビュー:吉田伸子/写真:三原久明

角川春樹事務所 ランティエ
2020年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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