牛なしでつくる牛肉って?「培養肉」の最前線

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クリーンミート

『クリーンミート』

著者
ポール・シャピロ [著]/ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/鈴木 素子 [訳]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784822288617
発売日
2020/01/10
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

あたらしい「謎肉」!? 世界が注目「培養肉」研究の最前線

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 牛なしでつくる牛肉って? バイオテクノロジーによって細胞を培養し、動物の体外で育てた肉。それがクリーンミート。マッド・サイエンティストの類じゃない。本気で実用化に取り組む人々がいて、2013年には世界初の培養肉ハンバーグが試食された。いまも数々のベンチャー企業が、食肉市場でのシェア獲得を目指して研究を続けている。その最前線を取材したのが本書だ。

 著者は、動物の保護活動をしている菜食主義者。2014年に培養肉のステーキチップスを食べる機会を得た場面からルポは始まる。もうベジタリアンを名乗れなくなるかも……食べて疑問が頭に渦巻いたものの〈おいしい味が口に広がり、バーベキューの記憶がよみがえった〉。

 培養肉が注目される理由は、牛や豚や鶏を集中的に飼育する現在の工業的畜産に課題が多いから。まずは効率性。世界で生産される大豆の大半が家畜の飼料になっている。動物性タンパク質を得るために、植物性タンパク質などの資源を無駄にするのは環境破壊につながる。次に倫理性。犬や猫なら動物虐待なのに、牛や豚の大量殺戮は許されてもいいのか。安全性も懸念材料。食肉処理中の糞便汚染などが人間にもたらす健康被害の可能性が指摘される。

 細胞培養を用いた食肉の生産によって、こうした問題が一挙に解決できる、と先駆者たちは力説する。〈将来、私たちは昔をふり返って思うだろうね。動物を殺して食べていたなんて、祖父母の代はなんて野蛮だったんだろうって〉。

 クリーンミートがクリーンエネルギーのように支持を集める日は本当に近いのだろうか。現時点ではきっと「なんかイヤ」が多数派だろう。心理的な壁は厚そう。でも、格安な加工食品の原材料とかに使われる分には、よほど変な味でなければ意外にあっさり受け入れられるかもしれない。カップ麺の「謎肉」だってずっと平気で食べてたしなぁ。

新潮社 週刊新潮
2020年3月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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