『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』
- 著者
- お股ニキ(@omatacom) [著]
- 出版社
- 宝島社
- ISBN
- 9784800299451
- 発売日
- 2019/11/28
- 価格
- 935円(税込)
DH制だけじゃない セ・パの決定的な違い
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
著者は、もともとネット上で独自の野球理論を唱えているうちにダルビッシュ投手に見出され、交流する中で名を上げていった素人野球評論家だ。実際のプレー経験は少ないものの、データ分析を武器に新たな野球の見方を提供している。「お股ニキ」という珍妙な名も、ネットスラングを取り込んだハンドルネームであり、いかにもSNS時代の才能という感がある。
データ解析は近年大きく進化し、野球の世界を一変させつつあるが、「なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか」ではセ・パ両リーグの格差が分析対象となっている。日本シリーズや交流戦でパが圧倒的優位に立っている原因として、一般にはDH制度の有無ばかりが取り上げられる。しかし著者は、選手の体格差、育成・補強戦略、ドラフトのくじ運にまで数値解析を進め、DHだけが原因ではないと指摘する。
つまるところ、両リーグの差はチーム経営戦略の差だ。パは将来のメジャー流出を覚悟の上で大型選手を果敢に指名、スターに育てている。また、無名の素材を見出して主力へと育成するシステムもパが上回る。こうして勝ち続ければ、観客動員も利益も向上し、好循環となっていく。伝統の中に縮こまり、思い切った手を打てないセ・リーグ球団の姿は、衰退する日本の姿に重なって見えてくる。
また、監督の能力を数値解析する試みも、意外な結果が出ていて興味深い。読み手の立場により、様々な読み方ができる一冊だ。