孤塁 双葉郡消防士たちの3・11 吉田千亜著 岩波書店

レビュー

6
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孤塁 双葉郡消防士たちの3.11

『孤塁 双葉郡消防士たちの3.11』

著者
吉田 千亜 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784000229692
発売日
2020/01/31
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

孤塁 双葉郡消防士たちの3・11 吉田千亜著 岩波書店

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 東日本大震災。応援はおろか満足な情報もない中、救助・救急活動に携わった地元消防士たちの覚悟、怒り、苦悩、そして葛藤。この本、読みながら何度息をのんだことか。

 「うそだろう」「ふざけるな」

 「見棄(す)てられてしまったのか――」

 「何か降ってきた。ヤバいぞ……!」

 「これでは、特攻隊と同じではないか」

 「もしかしたら死ぬのかもしれない」

 福島第一原発を所轄に持つ双葉郡の消防士たちが、地震後何日かの間に発した、あるいは頭に思い浮かべた言葉である。いったいどのような状況にあったのか。

 地震と津波の救助活動の中、原子炉が制御できない「15条事象」発生の連絡が入る。しかし、隊員たちは信じられなかった。原子力防災訓練の経験はあったが、東電からは「事故はおきない」と繰り返し説明を受け、その前提での訓練しか行ってこなかったのだから当然だろう。

 屋内退避指示が出たため、全国からの緊急消防援助隊が汚染区域に入ることができない。待ち望んでいた隊員たちに拡(ひろ)がる孤独と絶望。

 不眠不休の活動が続けられる中、第一原発が爆発。体につけた線量計が一斉に鳴り出した。死の灰による被曝(ひばく)を防ぐことはできなかった。

 3号機爆発での救援活動、1号機原子炉の冷却要請など、高線量区域である原発構内へと赴かねばならぬ消防士たち。心身共に極限状態の中、遺書をしたためる者がいた。

 「こういう時に消防士は家族を守れないんだな……」と感じた者もいた。彼だけではない、すべての隊員が同じ思いを抱きながら決死の働きをしていたに違いない。

 もう9年ではなく、「まだ」9年なのだと著者は記す。そして、自分の無力を感じ「バトンを渡す」という思いで書き続けてきたと。1人でも多くの人がそのバトンを受け取るべきだ。今も『孤塁』を守る人たちに思いをはせながら。

読売新聞
2020年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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