デッドライン 千葉雅也著

レビュー

4
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デッドライン

『デッドライン』

著者
千葉 雅也 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103529712
発売日
2019/11/27
価格
1,595円(税込)

書籍情報:openBD

デッドライン 千葉雅也著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 フランス哲学を専門とする著者による初の小説は、20年ほど前の東京を舞台に、修士論文を書く大学院生を主役に据える。ゲイである「僕」の独白で進む物語は、論文締め切り=デッドラインを睨(にら)み、青春小説として描かれる。

 野間文芸新人賞を受賞し、芥川賞候補に選ばれた本作を凡庸に説明するとこうなる。

 文章は短く切られていて、とても読みやすい。登場人物の相貌(そうぼう)は、はっきりしており、筋も追いやすい。それなのに読者は、読む力を試される。

 言葉により世界に線を引く営みとしての小説に、作者が十二分に自覚的だからだ。

 中国哲学から始まるゼミや「僕」の研究が作中に自然に挟まれ、読みの深みを増す。

 「僕」は、それらの議論を完璧にはのみ込めない。とはいえ読者は、何もかも自由に読んでいい、わけではない。

 自己と他者、動物と人間、男と女、といったさまざまな関係に、私たちは線を引く。

 本書の理解と誤解のあいだにもまた、死線(デッドライン)がある。

 「水槽に閉じ込められた魚」のように、見えない壁に突進しながら小説を読む楽しさと厳しさを同時に与える快作だ。(新潮社、1450円)

読売新聞
2020年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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