餃子のおんがえし じろまるいずみ著 晶文社

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

餃子のおんがえし

『餃子のおんがえし』

著者
じろまるいずみ [著]
出版社
晶文社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794971708
発売日
2020/02/04
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

餃子のおんがえし じろまるいずみ著 晶文社

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 私の料理は、融通がきかない。

 以前、母がよく作ってくれたホワイトスープを、調べたレシピを元に自分のアレンジを加えて再現しようとしたことがあった。だけど完成したのは、舌が痺(しび)れるほどしょっぱい白い汁。しょっぱくなった場合のその先のレシピはない。途方に暮れた。味の記憶をも塗り替えてしまったようで、無性に切なくなった。それ以降、分量も材料もレシピ通り、上手(うま)くいったものだけを集めた両手分の手札で回している。

 それが今、本書を片手に、新しい料理にチャレンジしたくなっている。と言っても、これはレシピ本ではない。根っからの食いしん坊で、元居酒屋店主の著者の“「おいしい」と「面白い」のマリアージュ”が楽しめるエッセイ集だ。

 表題は、餃子(ギョーザ)より先にラーメンを出されたことに憤慨した客が退店し、取り残された餃子を著者が引き取って以来、人生のあらゆる場面で餃子が助けてくれる、日本昔話のような1編。餃子を振る舞った夜にプロポーズされたり、料理ワークショップを始めることを決心できたのも餃子のおかげだったり。心から食を愛し、食に愛されているのだなと、各編から感じる。

 そこに付随するレシピも、これまた独特。チャーハンにするにはご飯が少し足りないときの「カラカラチャーハン」や余り物を使う「寿司(すし)飯リメイク」など家庭的なシチュエーション料理から、しょうもなくて名前のつけようがない「恥ずかしい料理」や「くずし餃子的肉そぼろ」といった、未知の料理とも出会える。エピソードと作り方を織り交ぜた「作る」エッセイになっているので、読み物として面白い。

 そうだ。食べることも作ることも、自由で楽しいのだ。杓子(しゃくし)定規な考え方と、集めたレシピを一旦手放してみよう。「家庭料理というのは、フレキシブルが取り柄(え)」。もしかしたら、母のホワイトスープに出会えるかもしれないし、私のホワイトスープが完成するかもしれない。

読売新聞
2020年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加