【聞きたい。】大澤正彦さん 『ドラえもんを本気でつくる』
[文] 本間英士
■人を幸せにするロボット実現へ
ドラえもんを本気でつくる。本書のタイトルにいったいどれだけ多くの子供が憧れてきただろうか。最先端のAI(人工知能)技術で夢の実現に挑戦する気鋭の研究者が、ロボット製作の現状を記した本だ。
「自分はドラえもんづくりに人生をかけてきました。ただ、ある日突然ドラえもんを世間にお披露目しても、唐突すぎて怖がられると思う。将来の完成時に受け入れてもらうためには、今の自分たちの“精いっぱい”を知ってもらう必要があると考えたんです」
物心ついた頃からドラえもんが好きで、大学で本格的なロボット製作に着手した。今月修了する慶応大大学院ではAIに加えて神経科学、認知科学も学び、人間の感情を研究。各分野のエキスパートらと協力した製作チームをリードする。
製作中のロボットの大きさは約20センチ。目標は同作に登場する「ミニドラ」のような、かわいくて役に立つ小型ロボットだという。「端的に言えば、人の言葉を話せないけれど理解はできるロボット。これなら今の技術で製作できるし、人との関係性も実現できる」。本書には製作上の苦闘や達成もつづられ、「AIは決して恐ろしい技術ではない」ことが理解できる。
現在のAI研究の中心はコンピューター自身が複雑な学習を行う「ディープラーニング」。ただし、人との関わりが苦手という弱点がある。そのため、人と接するロボットを作るには、人と深くかかわるためのAI技術「HAI」(人間とエージェントの相互作用)も重要で、しかもこの研究は日本人に有利だという。
「日本は人目を気にするなどの概念を持つ『共存の文化』。現在、日本はAI分野で後れを取っていますが、HAI研究なら世界でリーダーシップをとれる可能性がある。HAIと社会とのつながりを責任をもって推進するのが目標です」
原作でドラえもんが誕生したのは2112年。「人を幸せにするロボット」の実現は、想像より近いのかもしれない。(PHP新書・880円+税)
本間英士
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【プロフィル】大澤正彦
おおさわ・まさひこ 平成5年、東京都出身。4月、日本大文理学部助教に就任。本書が初著書。