“目的はカネ”じゃないから厄介!? 先読み不能な“誘拐”ミステリー

レビュー

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ザ・チェーン 連鎖誘拐 上

『ザ・チェーン 連鎖誘拐 上』

著者
エイドリアン・マッキンティ [著]/鈴木 恵 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151833045
発売日
2020/02/20
価格
858円(税込)

書籍情報:openBD

ザ・チェーン 連鎖誘拐 下

『ザ・チェーン 連鎖誘拐 下』

著者
エイドリアン・マッキンティ [著]/鈴木 恵 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151833052
発売日
2020/02/20
価格
858円(税込)

書籍情報:openBD

“目的はカネ”じゃないから厄介!? 先読み不能な“誘拐”ミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 本の帯には、長岡弘樹を始めとする日本ミステリーの最前線で活躍中の作家やドン・ウィンズロウら欧米の巨匠たちの賛辞が並ぶ。文字通り鳴り物入りの話題作の登場である。

 まあよくある惹句かと思って本文を読み始めると、頭の一行から話は動き出し、どんどん加速していく。ジャンルでいえば誘拐もの。「お前の娘を誘拐した。返してほしければ、他人の子供を誘拐しろ」という帯の文句はネタバレっぽいし大丈夫か、などといった心配をよそに、被害者の対応から目が離せなくなる。

 ヒロインのレイチェルは乳癌を患ったうえ離婚も強いられた三五歳のシングルマザー。何とか再就職がかない、これから前向きに頑張っていこうとしていた矢先に一三歳のひとり娘カイリーをさらわれてしまう。しかも犯人の「目的は金ではなく―〈チェーン〉だ」。いや身代金も要求するが、本来の目的は新たな標的を選んで、その子を誘拐するシステムの維持。カイリーをさらった実行犯もわが子をさらわれていた。

〈チェーン〉が悪辣なのは、自分たちの手を汚さず、誘拐被害者をさらなる誘拐犯に仕立てる点。連鎖誘拐たるゆえんだ。読みどころはむろんレイチェルが苦悩しつつ新たな誘拐を進めていくありさまにある。著者は彼女の単独犯にはせず、元軍人の義兄ピートを誘拐劇に加えていくのだが、彼も問題を抱えていた……。

〈チェーン〉は被害者たちを常時監視していて裏切り者には容赦ないところも恐ろしい。本書は二部構成を取っていて、後半では〈チェーン〉の素顔も明かされていくが、手の込んだサスペンス演出と先を読ませぬ展開で最後まで乗り切ってみせる。

 著者の作品は一九八〇年代の北アイルランドを舞台にした刑事ショーン・ダフィ・シリーズが三作訳出されているが、本書は文体も演出もそれとは一味も二味も異なる。シリアスでいて、エンタテインメント指向も全開のクライム・ノヴェルだ。

新潮社 週刊新潮
2020年3月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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