『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹著

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『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹著

[レビュアー] 産経新聞社

■米国民が気づいた危うさ

 4年前、女性初の米大統領誕生かと注目されたヒラリー・クリントン元国務長官は「希代の悪女」だった。本書は、数々の証拠を挙げて立証する。

 ネオコンに操られたポスト冷戦外交を道具に利権(政治献金、寄付)を誘導した「迂回(うかい)収賄」を行い、資金受け皿に慈善事業財団を設立し、世界をロビー行脚。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)へ武器を流出させ、発覚防止に自宅に私設サーバーを開いた公私混同の通信を行い、サーバーが中露など5カ国にハッキングされ、国家機密が漏洩(ろうえい)した…。

 中東を「民主化」したと世界に喧伝(けんでん)した「アラブの春」とは、一体何だったのだろうか。リビアのカダフィをなぶり殺し、ISへの武器流出を黙認。チュニジア、リビア、エジプト、シリアはイスラム過激派の巣窟と化した。紛争が絶えず、欧州に難民、移民が殺到、テロが多発、英国の欧州連合(EU)離脱の一因になった。

 「弱者のためのリベラル政党」に変身した米民主党は、「フェミニスト、グローバリスト、社会主義者、弱者利権政治家らに乗っ取られた極左政党」に成り下がった。その若き人たちに引っ張られて党幹部は右往左往するばかり。結局、「オバマは、外国企業のロビイストに推されて大統領に上り詰めた政治家で、政治の本質は(弱者ではなく)強者に寄り添ったものだった」。民主党の主張は、権力を握るための手段(方便)に聞こえる、と断言する。

 こうした民主党の危うさに米国民が気付いたからこそトランプ大統領が誕生した。2020年大統領選も勝負はついたようなものだ。トランプ勝利を的中させた著者は今回もトランプ圧勝を予測。最大関心事は「民主党がどんな負けかたをするのかにある」という。

 著者が「日本の国益に害悪にしか思えない」左傾化した米民主党の凋落(ちょうらく)は、評者が英国で経験した「筋がね入りの社会主義者」のコービン党首が社会インフラの再国有化を唱えた労働党の体たらくに通じる。「米国型二大政党制の崩壊もある」との著者の危惧は、英国にも当てはまる。世界の民主主義を牽引(けんいん)したアングロサクソン政治は曲がり角を迎えているようだ。(PHP研究所・1800円+税)

 評・岡部伸(論説委員)

産経新聞
2020年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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