直筆の漱石 川島幸希著

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直筆の漱石

『直筆の漱石』

著者
川島 幸希 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784106038488
発売日
2019/11/20
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

直筆の漱石 川島幸希著

[レビュアー] 木内昇(作家)

 漱石については、言文一致の草創期に登場して、小説におけるあらかたのことをやってしまった印象がある。この途轍(とてつ)もない文豪が英国留学中の日々を描いた、『倫敦(ロンドン)消息』の自筆原稿が見つかった。漱石の新出資料を探してきた著者はそこから、彼の欧州での足跡や交友関係を、他の資料も駆使し掘り起こす。

 残された手紙や原稿からは、漱石の創作の姿勢も垣間見える。新聞小説掲載時、校閲に原稿を勝手に直されたことに腹を立て、抗議の手紙をしたためる。その割に、単行本制作時の自身の校正は、いい加減である。書き損じの原稿には頓着せず、弟子にあげるか捨てるかしている。ちなみに太宰は、反故(ほご)原稿を丁寧に保管したらしい。芥川や藤村など同時代の作家との比較を交え、人間漱石の滋味深い佇(たたず)まいがあぶり出される。

 中でも、未発見の文章が載る明治期の雑誌を著者が発見するくだりには昂揚(こうよう)を禁じ得ない。自らの小説観を著した「文学志望者のために」と題されたその稿が、時を超え、漱石と向き合い続けた著者へ辿(たど)り着いたことに、運命的な力を感じずにはいられなかった。(新潮社、1300円)

読売新聞
2020年3月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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