ロスねこ日記 北大路公子著

レビュー

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ロスねこ日記

『ロスねこ日記』

著者
北大路 公子 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093887533
発売日
2020/01/30
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

ロスねこ日記 北大路公子著

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 のっけから私事で恐縮だが評者が愛犬を亡くしてもう6年がたつ。だが、今でも散歩中の海岸や仕事場で、ふとした拍子に思いがけず愛犬との記憶が蘇(よみがえ)り、何ともいえぬ切ない気分になることがある。

 本書は、飼い猫を亡くして15年だが未(いま)だに心の空白を埋めきれない著者に担当編集者が植物栽培を勧め、これに応じた著者が椎茸(しいたけ)、まいたけ、スプラウトなどを次々と栽培する日常を、随所に登場する猫の思い出とともに日記風に綴(つづ)ったものである。

 植物には全て名前が付けられる。まいたけには「きせのさこ」(稀勢の里を彷彿(ほうふつ)させると同時にきのこの3文字も含む)、生姜(しょうが)には「ジンジャー」と「エール」といった具合だ。「きせのさこも稀勢の里も、真面目で健気(けなげ)ないい男である」などの擬人化表現や擬猫化(?)表現が独創的で思わず笑いを誘う。著者の日常への観察力は尋常ではない。一方、猫との思い出を綴った文章には未だ癒えない喪失感がこもり、全体が絶妙なバランスの上に成り立っている。

 心温まる一冊だ。なお、最後のページを読んで不覚にも落涙したことを告白しておこう。(小学館、1300円)

読売新聞
2020年3月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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