本を売る技術 矢部潤子著 本の雑誌社

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本を売る技術

『本を売る技術』

著者
矢部潤子 [著]
出版社
本の雑誌社
ISBN
9784860114381
発売日
2020/01/23
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

本を売る技術 矢部潤子著 本の雑誌社

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 本を売るため「早くお金に変わる順」に置く。歩きやすい売場を作る。いつも本を綺麗(きれい)にする。

 36年間にわたって本を売り続けてきた著者が明かす知恵は、経験と論理に裏打ちされていて、書店員向けのマニュアルのように見える。だからこそ、本と関わるあらゆる人に向いている。

 本屋は商売だ、という当たり前なのに、よく忘れてしまう原則を、現場での奮闘に基づいて伝えるからだ。日本における本の流通は、確かに文化を支えている面も大きい。ただし、それはあくまで本がお金になるからであり、慈善事業でも公共事業でもない。本屋は本を「売る」。

 本書は、本が読者と接する書店を舞台にして、この商いが、どのように成り立っているのかを対談形式で伝える。返品や配本をはじめとする書店特有の仕組みについて、親切な補講も合わせて丁寧に説く。掃除の大切さもよくわかる。

 出版社で営業を担当する軽快な聞き手との話を脇で立ち聞きしているような面白さを味わううち、書店とは、書棚や平台を通した、店員と客との無言の対話の場なのだと気づく。

 お店が、どんな本をどこに置いているかは、店員からの訴えであり、何かを象徴する。その何かを客は知らないうちに受けとり本を買う。書店の醍醐(だいご)味を、本書から満喫できる。

 毎日あまりに沢山の本が出されるいっぽう、出版市場は小さくなる。人員は足りないのに、作業量は増える。少なくなるばかりの中小書店から見れば、本書は、恵まれた大書店での経験談に映るかもしれない。が、冒頭の10か条に始まる技法は、規模を問わず通じるに違いない。

 実際、渋谷での著者の勤務先は開店したてのため、村上春樹のような売れ筋を多く仕入れられず、独特の品揃(ぞろ)えで売り上げを伸ばす。客の一人だった評者は、本の並びと背表紙を通して思いがけない本と出会う眼力を鍛えられた。

 本屋さんに通う喜びがさらに深くなる。本を愛する人のための比類なき一冊です。

読売新聞
2020年3月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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