国策落語はこうして作られ消えた 柏木新著 本の泉社

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国策落語はこうして作られ消えた

『国策落語はこうして作られ消えた』

著者
柏木 新 [著]
出版社
本の泉社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784780719598
発売日
2020/02/06
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

国策落語はこうして作られ消えた 柏木新著 本の泉社

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 満州事変、日中戦争と日本が戦時色を強めていくにつれ、軍部は大衆文化への締め付けを強化しました。落語の世界でも、いわゆる「禁演落語」53演目が選ばれたのは有名です。郭(くるわ)話など風紀を紊乱(びんらん)するとされた話を、自粛という形を取って演じないようにしたのです。

 それだけかと思ったら、軍部に協力して戦意高揚を図る作品も多く作られたといいます。本書はそれを「国策落語」と呼びます。

 一体どんなものか。著者は内容によって13種に分類します。出征兵士を賛美するもの。隣組や防空演習の意義を強調するもの。貯蓄や債券購入を奨励するもの……そして、軍を賛美し、戦争を正当化するもの。それぞれ、一つ一つの国策にきめ細かく対応するもので、あたかも政府や軍の広報の趣があります。

 それもそのはずです。落語界は、1936年に陸軍省新聞班(後の情報局)に呼ばれて「愛国演芸同盟」を結成させられていたのです。すでにいくつか発表されていた国策落語は、その後作品の数が増え、雑誌記事や書籍、レコードなどの形で発表されました。寄席での上演状況は不明だそうですが、ラジオからも流れていたことが、宮本百合子の文章に見えます。

 落語には、旧来の社会制度を肯定する話も多く、必ずしも反逆精神が命だとは思いません。とはいえ、国策落語の内容を見ると、落語らしい軽妙さ、自由さが、痛々しいほど損なわれているのが分かります。巻末資料の4題の国策落語を読んでも、ちっとも愉快な気持ちにはなりません。むしろ、戦争遂行の道具に堕してしまったみじめさばかりが伝わります。

 本書には「天皇制政府」など特徴的な用語もあり、また、全体に校閲が大らかな傾向もあります。それでも、歴史に埋もれた数々の落語に光を当てたことは快挙です。大衆文化が戦争にどう利用され、どう協力していくか、読者はリアルな実例を見ることができます。

読売新聞
2020年3月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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