『話すチカラ』
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超人気アナが恩師とタッグ トークの秘術開陳に感嘆、絶句
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
「好きなアナウンサーランキング」で、常に上位に名前が挙がる、超人気アナウンサー・安住紳一郎。卓越した喋りの技術、独身者の自虐、テレビマンとしての矜持、ユーモアでくるんだ腹黒さ。清濁併せたいろんな面が、広く国民に知られ、愛され続ける、なかなか不世出のアナウンサーである。
そんな彼が、明治大学時代の恩師であり、テレビ番組で共演もする教育学者の齋藤孝と組んで出したのが本書である。アナウンサーと大学教授、いわば「日本語のプロ」二人が、明治大学の学生を前に、話し方のコツをおすそ分け、といった趣の講義形式で進んでいく。
まず、安住アナが日々駆使している言葉の操り方の妙を解説する。それを受ける形で、共演時や学生時代の彼の逸話を挟みながら、齋藤教授が裏打ちしていく、という構成。
まあ「日本語のプロ」だけあって、その技巧はおしなべて難度高めだ。「45秒話すときは、『序破急』の3分割。60秒は『起承転結』の4分割。いずれも15秒単位で話を組み立てるのが理想です」って言われてもねぇ。まず「序破急を意識して話をまとめる」なんて状況に、フツーの人間はあんまりならないし。
まあ、安住アナの如才なさの奥義が、本人の口から言語化され、つまびらかにされるところは、ファンにとっては垂涎ものだとは思う。華麗なるヨイショ術、次に繋げる仕事の断り方、喜ばれるフォローの仕方。長いキャリアで構築された彼独自のレシピを目にすれば、海千山千の大物芸能人たちが、なぜ彼に胸襟を開き、可愛がるのかがよくわかる。だからこそ素人がマネできる技術じゃないのだが。エッセンスだけ頂きますわ。
技術の他に、「国語科マニア」を自負する安住アナがオリジナルで見つけた日本語トリビアも興味深い。1~10までの数字を順番に声に出して言ってみると、「4」は「よん」と「し」、「7」は「なな」と「しち」と、2通りの読み方が出て来る。しかし、今度は数字を10~1の逆に数えていった場合、人は「4」を「よん」、「7」を「なな」としか読まなくなる。この事由に対する彼の考察の鋭さに唸らされると同時に、「そんなことばっか考えてるから、アンタは……」とツッコみたくなってくる。
仕事へのエキセントリックな探求心と、マニアックな実行力。これ誰かと似てると思ったら、鈴木健二にそっくり。「クイズ面白ゼミナール」を令和の世に蘇らせるのは彼だ。局違うけど。