小説家夫妻が交代で執筆 リレーエッセイ形式で展開する抱腹絶倒の読書案内

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  • 読書で離婚を考えた。
  • 『罪と罰』を読まない
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書籍情報:openBD

小説家夫妻が交代で執筆 リレーエッセイ形式で展開する抱腹絶倒の読書案内

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 小説家同士の夫婦、円城塔田辺青蛙による読書案内本、『読書で離婚を考えた。』。片方が相手に課題図書を挙げ、もう片方がそれを読んで感想エッセイを書き、相手への次の課題図書を指定。その繰り返しだが、これがもう抱腹絶倒ものだ。この二人ならばSFやホラーが多いかと思いきや、妻からの最初の課題図書はなぜか吉村昭『羆嵐』(新潮文庫)。北海道出身の円城の実家近くによく熊が出たそうで、二人でよく熊害の話をするかららしい。ほかにも吉村智樹と仲間たち『VOWやもん!』(宝島社)、ゲッツ板谷『板谷式つまみ食いダイエット』(角川書店)、大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術』(同)など意外な本が並ぶが、どれもそれなりの理由がある。

 互いの本の好みは異なるようで、相手の選書にどう反応しているかも面白い。本の感想はもちろん、夫婦の関係性や日常がユーモラスに描かれ、脚注の追加情報や相手へのツッコミも楽しい。とにかく笑える。

 ユニークな読書案内といえば翻訳家の岸本佐知子、作家の三浦しをん、作家・デザイナーの吉田篤弘、作家・装丁家の吉田浩美による『『罪と罰』を読まない』(文春文庫)。有名なドストエフスキーのあの名作を読んだことがない4人が読書会を開催。冒頭と最後の部分の翻訳だけ読み、既読の編集者にアシストしてもらいつつ語り合う。殺人が起きるタイミングやソーニャの物語的役割などを推測するのだが、三浦氏がなにかと漫画「島耕作」シリーズ(ロシア編)から得た現地情報を活用する様子など、とにかく彼らの会話が笑える。全編読了した後に改めて開かれた読書会も収録され、内容の細かい箇所への鋭いツッコミに噴き出してしまう。本を読んで語り合うことの楽しさが伝わってくる。

 意外な本に出合えるのが津村記久子の読書エッセイ『枕元の本棚』(実業之日本社文庫)。小説だけでなく絵本や図鑑や実用書、写真集などが登場。たかはしみき『まいにちトースト』(技術評論社)、エリック・シャリーン『図説 世界史を変えた50の動物』(原書房)など、58冊が紹介されている。

新潮社 週刊新潮
2020年3月26日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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