ホークス・甲斐拓也、名捕手・野村克也の背番号「19」に恥じない活躍を誓う

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野村克也の「人を動かす言葉」

『野村克也の「人を動かす言葉」』

著者
野村克也 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103532712
発売日
2020/03/12
価格
1,375円(税込)

書籍情報:openBD

野村さんの想いを胸に

[文] 新潮社


「19番のユニフォーム姿を、野村さんに見て欲しかった」と語った

「評価は他人が決める」

――では、本書の中からいくつか、印象に残った言葉を教えて頂けますか。

甲斐 やっぱり僕もキャッチャーですから、野村さんが古田敦也さんに言った「お前の出す指の向き一つに、選手の生活と球団の未来がかかってる!」です。

 初めてお会いした時、野村さんから、

「困ったら外角低め」

「キャッチャーは観察・洞察・判断」

「右目でボールを見て、左目でバッターの仕草を盗め」

 という、キャッチャーの極意を教わりました。このポジションは、ここまで要求されるというのは、その後、経験を重ねていく過程でよく分かりました。それでも野村さんは「功は人に譲れ」です(笑)。

 でも、厳しいことや辛いことばかりではなく、野村さんがこの本で書いているように「野球に監督はいても、実際ダイヤモンドを舞台にドラマを導く脚本家は捕手なんだ」という面白さもあるのが、このポジションの魅力ですね。

――甲斐さんは帽子の裏や道具などに「人はヒト」と書かれていますが、これはどういう意味があるんでしょうか。

甲斐 育成の頃、コーチに言われた言葉です。その頃の僕は、「こいつがいるから」とか「あいつが何している」とか、すぐに他人を意識したり羨ましがったりすることが多かった。育成でも指名は低かったですし、体も大きくない、そんな思いもあったのでしょう。そんな時、コーチから「いいか、人は人やぞ。他人のことなど気にせずに、お前は自分のやるべき練習をしっかりやれ。そうすれば誰かが必ず見ていてくれる」と。それからですね。自分なりにできるようになっていったのは。

 この本でも野村さんが書いていますね。「その人間の価値や存在感は、他人が決める」。他人が下した評価こそ、自分の評価だというのは本当にその通りで、頑張っていい仕事をしていれば、必ず誰かが見ていてくれるんだと思います。

「母ちゃんを大事にしなさいよ」

――似ている、というところでもありましたが、野村さんが野球選手になったのは、お母さんに楽をさせてあげたかったからでした。甲斐さんもそうですか。

甲斐 僕は二人兄弟で、兄も僕も野球をやらせてもらえたんですが、女手一つで育ててくれた母親は、本当に苦労したと思います。

 でも、野村監督のお母様のご苦労はそれ以上だったんですね。今までもお母様について書かれたことはありましたが、今回はずいぶんと詳細で、何度も病気になるなど、初めて知るエピソードが沢山ありました。

 お母様に家を買ってあげるという時に、とにかく豪華な家を、と思う野村さんに、「親の好きにさせてくれるのも、親孝行だよ」という言葉は胸に響きました。こちらが一方的にするのだけが親孝行ではないんだなと。親がしたいことを叶えてあげる、というのも親孝行なんですね。

 ただ、母親のためにやってきたというのは僕も同じです。この本の中で、監督時代の野村さんはスカウトに対して、選手と両親との関係にも注目するように言っていたと書いてあります。「親孝行な選手は出世する」という野村さんの言葉が出てきますが、僕もその例にもれないように、頑張ります。

――最後に野村さんにお会いしたのはいつですか。

甲斐 2019年2月のキャンプでした。その時に言われたのは「母ちゃんを大事にしなさいよ」と。今思えば、「母ちゃん」とは母親と妻、両方を指して仰ったのではないかと思うんです。

 この本では、野村さんの妻、沙知代さんとのエピソードも収録されています。読んでみて、改めて思ったのですが、野村さんにとって沙知代さんは、お母様と同じくらい、大切な存在だったのだなということが分かりました。選手、監督として、最高のパートナーでもあったんですね。沙知代さんへの最後の別れの言葉は、ぐっとくるものがありました。

――野村さんは、甲斐さんについて「勝った試合でも、悪かったところをしっかり反省をする。とても大事なことだ」とよく褒めていましたね。

甲斐 いやもう、反省しかないですよ。なんであんな配球にしたんだろう。どうしてあそこで打てなかったんだろう。そればかりです。仮に勝っても、気分良く帰る日なんて、年間数試合です。

 2019年シーズンでいえば、勝って気持ちよく帰宅したのは、同じ育成出身の千賀(滉大)と、ノーヒットノーランを達成した試合(9月6日)だけです。「言い訳は進歩の敵」と、よく野村さんが仰っていましたが、言い訳でなく反省してきちんと次に生かす、これです。

 今季も目指すはリーグ優勝・日本一ですが、天国にいる野村さんに、ホークスの19番・捕手として恥じない選手になれるよう、努力を怠らず、精進していきたいと思っています。 (聞き手・編集部)

新潮社 波
2020年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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