新実存主義 マルクス・ガブリエル著

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新実存主義

『新実存主義』

著者
マルクス・ガブリエル [著]/廣瀬 覚 [訳]
出版社
岩波書店
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784004318224
発売日
2020/01/23
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

新実存主義 マルクス・ガブリエル著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 著者は、近年にわかに脚光を浴びるようになった気鋭のドイツ人哲学者。すでに『なぜ世界は存在しないのか』『「私」は脳ではない』の日本語訳が上梓(じょうし)されているが、著者の基本的スタンスを直接的に把握するにはどちらも難しい本である。これに対して本書では、著者自身の中心的論文とそれを巡る4人の哲学者たちとの応答を通して、著者の思考の根底にあるテーマが提示され、検討されている。

 そのテーマは、今日優位にある唯物論的な世界観に揺さぶりをかけること、そして人間の心が生み出す多様な存在に対して、物の世界に還元されない、しかるべき位置を与えようとすることにある。実際、本書における著者の議論の大部分は、人の心が生み出す存在が、決して物理的世界に還元されないことの論証に割かれている。

 物理的世界と心との関係はこれまでは、分析哲学的伝統にある「心の哲学」において心脳問題として扱われてきた。これに対して著者は、ドイツ観念論の思考法を復興させることで、この問題に立ち向かう。

 著者によれば、人間は自分を物理的世界や動物的世界から区別しようと試みるなかで、多様な心的語彙(ごい)を生み出している。これらの語彙が形成する「概念に依存する現象の領域」は、ヘーゲル的に「精神」と名づけられ、その自律性が強調される。著者が自分の立場を「新実存主義」と名づけるのは、人間が自らを概念化することと行為することが密接に結びついている自己決定的存在であることを意味している。

 今日、人工知能や脳科学が急速に発展するなかで、人工知能とは異なる人間の独自性や、脳科学で把握できない心とは何なのかという問題が再度注目を集めるようになった。

 ガブリエルの哲学は、こうした時代において、人間が創出する世界の独自性を確信させてくれるヒューマニズムとして、われわれに勇気を与えてくれるのだ。広瀬覚訳。

 ◇Markus Gabriel=1980年、ドイツ生まれの哲学者。ボン大学教授。著書に『神話・狂気・哄笑』など。

読売新聞
2020年3月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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