<東北の本棚>400年前に100万都市の礎
[レビュアー] 河北新報
表紙を飾る武将のかぶとの前立ては三日月。もう一つの目印となるはずの刀のつばの眼帯はない。仙台藩祖伊達政宗の伝記である本書のスタンスは、まずこの絵に象徴されている。
仙台市在住の児童文学作家が最近の日本史研究の成果を丁寧に追い、70年の生涯を史実に即して描きだした。政宗は幼少時に疱瘡(ほうそう)で右目を失明したが、常に黒い眼帯で覆っていたとする記録はなく、後年の創作であることが分かっている。母の義姫に毒殺されかかった揚げ句、弟の小次郎を手討ちにしたとの伝説も虚実はあいまい。作中では別の解釈を採用した。
米沢で伊達家17世に生まれついた政宗は、父輝宗の薫陶を受け、鬼庭(もにわ)左月ら父祖の代からの忠臣や虎哉(こさい)禅師、乳母の片倉喜多、その弟で近習の小十郎に支えられながら、奥羽の王となるべく成長する。人取り橋や摺上原(すりあげはら)などでの死闘を乗り越え、ついに南東北を手中に収める。
一方、既に豊臣秀吉は全国統一に王手をかけていた。信長、秀吉、家康より1世代若い政宗は、天下取りがかなわない「遅れてきた戦国武将」の一面ばかりが強調されがち。だが、合戦に明け暮れた前半生だけに注目するのは古いヒーロー観だろう。近世大名としての後半生の活躍がなければ、今日の仙台も存在しないのだ。
関ケ原の戦いの後、岩出山から仙台に入った政宗は、新たな国造りに取りかかる。太平の世を願う城下の町割りは、現在の市中心部にほぼそっくり残っている。武士に開墾を促す独自の仕組みで新田開発を推し進めると、原野は有数の米どころに変わった。100万都市の礎が約400年前に築かれていたことがよく分かる。
児童向け伝記シリーズの1冊だが、言葉遣いは一般の歴史小説同様で、政宗を一から理解したい大人にも格好の入門書となる。33年前の大河ドラマ「独眼竜政宗」のファンも、知られざる幾つもの魅力に出合えるはずだ。
岩崎書店03(3812)9131=1650円。