正直さとユーモアで読者を魅了する“旅”を通じた自己探究

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  • 食べて、祈って、恋をして〔新版〕
  • 行かずに死ねるか!
  • わたしの旅に何をする。

正直さとユーモアで読者を魅了する“旅”を通じた自己探究

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 二〇〇六年(日本では二〇〇九年)に刊行され、ジュリア・ロバーツ主演の映画も大ヒットした世界的ベストセラー、エリザベス・ギルバート『食べて、祈って、恋をして』が新版となって登場。「人生仕切り直しの旅」の記録だ。

 三十四歳。泥沼の離婚と失恋で疲弊した心身を解放し、自分を見つめ直すため、著者は三つの場所を一年かけて順繰りに訪れる。イタリアでは語学を学び大いに食べ、インドではヨガの修行を通じて心の平安を見出す方法を体得し、バリ島では愛を与え、与えられる喜びを知る。露悪に傾かない正直さと自虐に頼らないユーモアが、読者を終始魅了する。

 本国で二〇一六年に発売された記念版には「十年目のまえがき」が添えられた。新版にも収録されているこの文章がいい。十年の間に寄せられた反響に感謝を示しつつ、自分が「旅」から既に自由になっていること─辛かった記憶だけでなく良い思い出にも縛られていないこと─を明かし、自己探究に必要なのは自問を続けることだと伝える。多くの人に影響を与えた「実績」を誇らず、有名であることに価値を置かないスタンスが潔く清々しい。

 石田ゆうすけ『行かずに死ねるか! 世界9万5000km自転車ひとり旅』(幻冬舎文庫)は、がむしゃらという言葉がぴったりの冒険記だ。二十代半ばで会社を辞め、七年半かけて八十七の国を訪問。一期一会の相手に向ける自分の笑顔の純度について考えるなど、旅が深まるにつれ思索も深まっていく様が印象に残る。

 宮田珠己『わたしの旅に何をする。』(幻冬舎文庫)は〈たいした将来の見通しもなく会社を辞め、とりあえず旅行しまくりたいと考えた浅薄なサラリーマンのその後〉を書いた紀行エッセイ。とほほ感あふれる顛末に何度も笑わされ、人はそのキャラクターにふさわしい(似つかわしい)経験をするのかもなあ、なんて思ってしまったりするのだが、いやいや、同じ経験をしてもとてもこんな風には書けない。読み手の肩の力を抜かせる匠の技が、全編に施されています。

新潮社 週刊新潮
2020年4月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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