沖縄戦から本当は何を学び取らねばならないのか

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証言 沖縄スパイ戦史

『証言 沖縄スパイ戦史』

著者
三上 智恵 [著]
出版社
集英社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784087211115
発売日
2020/02/17
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

沖縄戦から本当は何を学び取らねばならないのか

[レビュアー] 金平茂紀(TBS「報道特集」キャスター)

 映画『沖縄スパイ戦史』を見終わった時の感慨を遥かに上回る、切迫感をともなうファクトの重みを喉元に突きつけられた。三上は活字ジャーナリズムの方が向いているんじゃないか(エラそうにごめんなさい)。米軍が上陸して地上戦があり夥(おびただ)しい死者が出た沖縄戦といった、被害だけを前面に出した言説で、覆い隠されているものがないか。
 先の戦争末期、陸軍中(なか)野(の)学校出身の将校らによって沖縄で創設された「護郷隊」という少年兵部隊があった。そこに所属していた元少年ゲリラ兵たちの証言は、どれも昨日のことのように生々しく具体的だ。三上のインタビュアーとしての力量がいかんなく発揮されている。戦死した友人の手だけを切って持ち歩いた兵。部隊内での暴力支配。敗戦を決して受け容(い)れない強烈な洗脳。人を殺すのが山羊を殺すより容易という麻痺。兵士たちが「天皇陛下万歳」ではなく「お母さん」と言って死んでいったこと。隊員同士で向き合ってビンタをさせたこと。
 圧巻は、第4章の沖縄住民がスパイ容疑で虐殺された事件の調査報道部分だ。戦後、長い歳月が経過した後だから初めて口を開いた住民たちがいる。虐殺には日本兵だけではなく沖縄の住民も関与していた。集落の半数以上が親戚という環境が真実を残す作業を阻(はば)む。三上は言い切る。〈スパイ虐殺の犠牲者を「戦死」と捉えたり、「戦争が殺した」と罪を霧散させる言い換えをすることは、事実を見誤る行為だと考える〉。
 護郷隊幹部の戦後史まで執拗に検証して、三上は思いを吐露する。〈戦争の罪、国家の罪というが、しかし操られ踊らされた個人は無罪なのか? 同じ日本人によって殺された命の意味を誰が救い上げるのか? 加害者を生み出したシステム……戦争の闇を切り開いて病巣を露にして提示しなければ、被害者も加害者も救われないのではないか? 私を突き動かしているのは、現場を歩いていて繰り返し沸き上がって来るそんな思いだった〉。激しく共振する。

金平茂紀
かねひら・しげのり● TBS「報道特集」キャスター

青春と読書
2020年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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