友だち シーグリッド・ヌーネス著 新潮クレスト・ブックス

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友だち

『友だち』

著者
シーグリッド・ヌーネス [著]/村松 潔 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105901639
発売日
2020/01/30
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

友だち シーグリッド・ヌーネス著 新潮クレスト・ブックス

[レビュアー] 村田沙耶香(作家)

 なぜ考えてしまうのだろう、といつも思っていた。こんなことまで考えてしまったら生きていけない、そんな風に思いながら眠れない夜を過ごすことがよくあった。けれど、この本を読み、少しだけなぜなのかわかった。考えることは、傷ついた日常を、自分の言葉で修復していくことなのではないか、と感じたのだ。

 『友だち』は少し変わった小説だ。主人公の女性は小説家で、彼女の大切な男友達が自殺したところから話は始まる。彼女は彼が飼っていた犬と暮らすことになる。こう説明すると、読者が気持ちよく切なさに浸るようなわかりやすい物語を想像してしまいそうだが、ページを捲(めく)ると、それとはまったく違う世界が広がる。

 冒頭から、読者は、主人公の思考の中を漂っているような、奇妙な感覚に包まれる。

 ストーリーはほとんどなく、彼女の精神から見た世界と、思索から溢(あふ)れてくる言葉そのものが物語だ、と感じさせる。自殺した男友達も小説家であり、彼女は小説についても真摯(しんし)に考え続ける。書くこととそれを教えることから生まれる感情や、それを起点とした思索は、ときにはっとするほど生々しく、だがとても誠実である。友人が残した犬は、物語のための都合のいい、読者を感動させるための道具としては、決して扱われない。彼女は、「動物の苦しみについて」誠実に考え続ける。

 考える、というのは一人で孤独にすることのような気がしていたが、言語化された彼女の思考の世界を見ると、それは違っていたとわかる。いろいろな作家、いろいろな人、記憶、たくさんの言葉が彼女に宿っていて、彼女の言葉だけではなく、それらが重なって、彼女の世界が構築されている。

 最後に、フィクションとは何か、ということを不意に突きつけられる。物語を読み終えてから、今度は自分が考え続ける。そういう、誠実な問いが宿った小説である。村松潔訳。

読売新聞
2020年4月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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