世界最強の諜報機関によるやりたい放題な暗躍の歴史

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CIA裏面史

『CIA裏面史』

著者
スティーブン・キンザー [著]/花田知恵 [訳]
出版社
原書房
ISBN
9784562057214
発売日
2020/01/22
価格
2,970円(税込)

世界最強の諜報機関によるやりたい放題な暗躍の歴史

[レビュアー] 山田敏弘(国際ジャーナリスト)

 世界最強の諜報機関と名高いCIA(米中央情報局)の72年に及ぶ歴史のなかで、特に機密度の高い計画のひとつとして知られる「MKウルトラ」。

 薬物を使って人間の思考を操る〈マインド・コントロール〉を実現しようとしたその計画の責任者だったのが、「ポイズナー・イン・チーフ(毒殺部長)」こと、シドニー・ゴットリーブ博士である。本書は、ゴットリーブの人生を追い、CIAの不都合な歴史に改めて光を当てている。

 CIAは、「国家の安全保障のため」という大義を掲げ、世界でやりたい放題に暗躍してきた。よく知られている暗殺事件や政権転覆工作だけではない。容赦なく人体実験や拷問を組織的に行ってきた生々しい事実も、本書は浮き彫りにする。

 情報関係者からは、「CIAという組織は人の命を軽く見ている」との悪評を耳にするが、以前はもっと酷かった。第二次大戦後には戦時中に行われた日本軍やナチスによる残忍な人体実験の記録を確保し、そのノリのまま冷戦に突入。それが俗悪な「MKウルトラ」計画へとつながっていく。

 ゴットリーブは、1953年から10年にもわたって、人の思考を操るべく幻覚剤LSDなどを使った実験に手を染めた。ワシントンやその周辺で、一般市民やCIA局員にこっそりと投与したり、CIAがニューヨークなどで設けた売春宿で客に毒を盛ってその反応を観察した。さらにドイツや日本、韓国でも、囚人などの「人間モルモット」を現地で手配してもらい、様々な薬物を投与する実験を行っていたこともあるという。

 もっとも、CIAの元上級幹部などに話を聞けば、「われわれは法の下に動いている」と口を揃える。確かに米国では80年に情報活動監査法というスパイを規制する法律ができ、89年には独立した監査部門が作られているが、それ以前はほとんど無法状態。ただ監査ができても、形式的なものという感は否めず、相変わらず極秘工作や監視活動などが続けられているのが実態だ。ある元幹部は、現役時代の最大の敵は「監査部門」だったと笑っていたが、本音だろう。

 現在のCIAは史上初めて女性長官が率いているが、彼女はタイにあった極秘の拷問施設を取り仕切っていた人物だ。ちなみに拷問は違法行為である。

 そうした活動を生業にしている人たちが、世間から存在を隠しながら国際情勢の舞台裏で暗躍してきたという現実を再確認できる貴重な一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2020年4月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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