ファッション音痴でも一気読み! 目からウロコのスーツ指南書
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
文筆家でイラストレーターの著者は、お洒落好き。ところがマスコミ業界を見渡せば、似合う服を着ている人が少なすぎる。もったいない男たちの集積場だ。いっそ、私に上下一式見繕わせてくれませんか?
そんなお節介の標的(?)になるのは、作家の宮田珠己さんや高野秀行さん、雑誌の編集長たち。好みを聞き、作戦を練り、店を巡り、残念な装いの中年男どもを大改造していく。面白いのなんの。ビフォーアフターの写真だけでも笑えるほど。
〈マスコミにいるほとんどの非お洒落人は、「ネクタイをしないでいられる自由な職場にいる」誇りを持っているようにみえる〉
〈多くの日本人男性が、スーツを「着せられている」と思っているのではないか。社会人として「窮屈だけど、着なければならないもの」〉
吹き出しつつ、イタタ。刺さる。グサグサ刺さってくる。だって他人事じゃないから。私も業界の片隅で三十数年過ごしているけれど、スーツはいつ買ったのかも覚えていない一着だけ。冠婚葬祭以外はネクタイと無縁で通してきた。
おそらく就活中の学生さん以上に無知。ドロップとかクッションとか何のことやら。ブランド名を「僕には呪文にしか聞こえません」とボヤく編集者が登場するが、まったく同感。もし新調するとしても量販店が関の山。しかも〈着たい服と似合う服が同じとは限らない〉なんて言われちゃもう、どうにもこうにも。
そんなファッション音痴でも(だからこそか)一気読み。著者はこれぞという一着を探し回る中で、知識を広げ、眼力を鍛えていく。読むこちらも目からウロコがぽろぽろ。
素材、縫製、色味、柄、合わせるシャツ……。無限に広がるスーツ迷宮だけど、鉄則をひとつだけ紹介すると、身体に合っていること、だそうだ。なにしろ〈フィッティングで五倍はマシになる〉んですと。
次の一着より、まず一読。