お悩み解決以外の味わい方も それぞれの人生相談

レビュー

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ライムスター宇多丸の映画カウンセリング

『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』

著者
宇多丸
出版社
新潮社
ISBN
9784101018713
価格
781円(税込)

書籍情報:openBD

お悩み解決以外の味わい方も それぞれの人生相談

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 他人に近づけないことが、世界共通の悩みである現在。人生相談本は、ひとりでも誰かと話している気分を味わえる。『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』は、批評家としても信頼されているラッパーの宇多丸が、相談者の悩みに応じて四百本以上の映画を紹介してくれる一冊だ。

 最初の「カツラを外すタイミングが分かりません!」という悩みに対する回答から引き込まれる。宇多丸さんはカツラが取れてしまう瞬間をコミカルに描いた作品を紹介したあと、どうしたら同じことがカッコよく見えるか具体的なタイトルをいくつか挙げながら考察するのだ。映画における〈ヅラ取れ〉のバリエーションの豊かさに驚くし、最後の実用的なアドバイスも説得力があって優しい。

 思いがけない発見のある文章も多い。たとえば「小説を結末から読んじゃう癖を治したい!」という相談者に対する回答。宇多丸さんは「結論」を先に見せておくことで面白さが増している映画を紹介した上で、相談者自身が気づいていない、作品鑑賞をつまらなくしている思い込みを指摘する。まるで意外な真犯人を暴く名探偵のようだ。

 また「いい歳してアイドルにハマってしまいました!」という悩みへの回答は、三部構成の大長編。一九八〇年代以降の日本アイドル史を概観できる濃厚な内容になっている。どの回答もお悩み解決のヒントを提示するだけではなく、好きな作品を観てほしいという情熱が伝わってくる。

『橋本治のかけこみ人生相談』(幻冬舎文庫)も、読みごたえのある人生相談本だ。相談者の言葉を解きほぐして問題の核心を突く手腕が見事。「人の幸せそうな姿が我慢なりません」というお悩みに対して〈あなたが《幸せそうな人》と思う人達は、みんな「バカ」なのです〉と答えるくだりなど圧倒されてしまう。

『大正時代の身の上相談』(ちくま文庫)は、当時の新聞記事から興味深い身の上相談を取り上げた本だ。時代の違いを感じる悩みもあるが、身につまされる話もあって、百年前の人に親近感をおぼえる。

新潮社 週刊新潮
2020年4月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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