『ひこばえ 上下』重松清著
[レビュアー] 産経新聞社
洋一郎は定年が見えてきた55歳。大手生保会社から高齢者向け施設に出向している。幼いころに母と離婚して出ていった父親のことはほとんど覚えていないが、4歳上の姉によれば、お金にルーズなろくでなしだったという。48年も消息不明だった父が亡くなったという知らせが突然入り、思いもかけず晩年の知人らと出会うことで、父の生涯が分かってゆく…。
どこにでもいる家族の、なにげない日常を小説にしてホロリとさせるのが実にうまい作家だ。人生を負け越したような“ダメおやじ”に対し、勝ち負けで判断しちゃいけないというセリフが泣かせる。(朝日新聞出版・各1600円+税)