コロナ禍後の世界の予言!? 様々な彩りを放つ“村田ワールド”

レビュー

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丸の内魔法少女ミラクリーナ

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

著者
村田 沙耶香 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041084236
発売日
2020/02/29
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

コロナ禍後の世界の予言!? 様々な彩りを放つ“村田ワールド”

[レビュアー] 伊藤氏貴(明治大学文学部准教授、文芸評論家)

 滅びの女予言者、村田沙耶香の描く近未来は、しかし決して灰色一色に塗りこめられているわけではなく、むしろ作品ごとに彩りは様々である。本書に収められた四編もそうだ。現実に近いほど色は淡く、離れるほど色濃くなる。村田ワールドへ旅をするなら、初心者は淡い方からはじめた方がいい。なんといっても『コンビニ人間』はその点で最適だったが、本書の表題作も、初心者には薦めやすい佳品である。

 魔法少女になれると思っていた小学生の時の夢を未だに引きずる三十六歳のOLというのはかなり奇矯ではあるが、本人は半ばそれを自覚し、むしろ夢とのバランスをとることによって現実をうまく生きている。と、ここまでなら他の作家にも書けるだろうが、村田の場合、この主人公を軽く上回る奇人が主人公の前に出現する。パステルカラーの色調が次々と混ざりあって一気にカオスに突入する。果たして魔法少女の運命やいかに。

 他の三編は、「性」の問題が絡んだときの村田作品の常として、毒々しい色遣いになる。「秘密の花園」では小学生の時から密かに片思いしていた男性を自宅に監禁する女子大生が性を貪り、「無性教室」では性別というものを禁じられ、一様に男性的振る舞いを義務付けられている共学高校の中で、かえって多様な性愛が志向される。

 そして最後の「変容」に至っては、性愛自体に関心のない新世代が旧世代と激突する。と言っても、新世代には「怒り」という感情すらなく、すれ違いにしかならないのだが。あまりにも急激な意識の「変容」だ。

 しかし、この度のコロナ禍は、他者との距離を決定的かつ不可逆的に広げたに違いない。性愛や怒りなど、他者との接近を必要とするものは忌避されていくのではないだろうか。この作品の色遣いの変容に目眩を起こすならば、来るべき世界では過去の遺物扱いされてしまうことを覚悟しなければなるまい。

新潮社 週刊新潮
2020年4月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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