実践と実食を繰り返し 暮らしから広がる“思索の枝”〈ベストセラー街道をゆく!〉

レビュー

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「家庭料理」という戦場

『「家庭料理」という戦場』

著者
久保明教 [著]
出版社
コトニ社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784910108018
発売日
2020/01/14
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

実践と実食を繰り返し 暮らしから広がる“思索の枝”

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 たとえ街に出られなくなっても「暮らし」は依然として続いていく。スーパーのレジに並ぶ行列の姿は、私たちがどうあっても生活からは逃げられないという事実を端的に示している。

 そんな状況下で異彩を放つのが本書だ。今年1月に発売され、2カ月ほどで重版出来。新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛要請を受け、人びとが必然的に内食や中食スタイルの生活を強いられるなか、口コミでじわじわと注目を集めている。

 本書は「家庭料理」の戦後史を分析的に論じたもの。60〜70年代を家庭料理のモダンの時代と捉え、「レシピの民主化」を颯爽とリードした小林カツ代と栗原はるみの登場、そしてクックパッドのようなレシピ投稿サービスが席巻している現在まで、人びとが「家庭料理」に抱くイメージと期待が生活環境の中でどのように変遷してきたのか明晰にあぶりだしていく。

 著者は文化人類学の研究者だが、その筆致は一般的な学術書とはひと味違う。例えば目次には〈カレーライスでもいい。ただしそれはインスタントではない〉〈なぜガーリックはにんにくではないのか?〉といった好奇心をくすぐる章タイトルが並ぶ。きわめつきは実食コメントと投票による対戦形式で展開される〈実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負〉だろう。

「料理文化を学術的に論じる本ならこれまでも数多くの類書があったと思いますが、本書は実践と実食を繰り返しながら暮らしの実感と学問を行ったり来たりする点が非常にユニーク。帯にも〈作って、食べて、考える〉とあるとおり、この本には読者自身が『暮らし』ながら考えていくための手立てが織り込まれているんです」(担当編集者)

 実際、2月半ばに催された書店イベントでも、「食」という身近なモチーフから思索の枝がどんどん広がる過程に惹きつけられる参加者が多かったという。
「ただ暮らしに流されることに人びとが耐えられなくなっているいま、こういう“生活の中の人文学”が必要になっていくんじゃないかと」(同)

新潮社 週刊新潮
2020年4月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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