百姓たちの熱き闘いを描く歴史長編 『大一揆』平谷美樹

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大一揆

『大一揆』

著者
平谷, 美樹, 1960-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041093153
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

百姓たちの熱き闘いを描く歴史長編

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 盛岡藩の三閉伊(さんへい)を中心とした大一揆(いつき)を描く歴史エンターテインメントである。

 主人公は、一揆のあり方に疑問を抱き、今回、はじめて加わる三浦命助。彼は、栗林(くりばやし)村の肝入(きもいり)を何度も勤めた旧家の分家の出。正月に東(ひがし)(屋号)の当主が没したので、その代わりを務めており、過去に藩主の駕籠(かご)役を命じられるも、太りすぎということで免じられたという経緯があった。今はだいぶ身体がしぼられ、筋骨逞(たくま)しい若者となった。

 物語は、この命助の立場が、いわば、侍と百姓の中間にあるため、一揆仲間の信頼を苦労して勝ちとるまでが描かれ――だが、根強く不信感を抱いている者もいる――命助の策略により、仙台藩に越訴(おつそ)しに行くことに決まる。

 一揆勢は、どんどん膨れあがり、その中には、「お前たちが野臥であったのか、本当の一揆であったのか、ちゃんと確かめてやる」という、たせ婆もいる。

 作品は、ダイナミズムの中にも、次第に心の底から一揆仲間と通じていく命助のありようを細やかなタッチで描いていく。

 時は折しも、ペリーが浦賀に現れ、諸藩に動揺が走る頃――。その中で、三閉伊を仙台領にしてくれ、という命助らの願いは叶うのであろうか。場面が終盤に近づくに連れ、読者はこの一揆の顛末(てんまつ)が成功するか否か、祈るような思いを抱くに違いない。

 私がこの稿を草しているのは四月の初め。新型コロナウイルス蔓延のさ中である。そんな時、権力を持った政治家が正しくこれを行使せず、対策が遅れに遅れている場合、往時なら一揆が起きているのは否めない。

光文社 小説宝石
2020年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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