NHK人気番組から書籍化! 著者が語る“「流れ」としての生命”
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
著者が今月新聞に発表した、ウイルスは撲滅できないという趣旨の文章は、かなり話題になった。人体がウイルスに接すると、まるで積極的に招き入れるような挙動をすることが書かれていた。一見不可解なその挙動のわけを、ウイルスから人体にもたらされるものという面から語っていて、目を開かされる内容だった。ウイルスの性質を知ることは、命をとられないためにも、人間社会の営みを続けていくためにも必要なことである。
自宅にこもる時間が増えがちなこの機会に、著者がライフワークとして考え、伝えている「動的平衡」の考え方を知ってみてはいかが。自分がいま置かれた状況が不透明で苦しいなら、それを客観視し、大きなマップのどこかに位置づけることができれば気分は変わる。こういうときこそ、読書なのだ。
ちょうど、著者の考え方のエッセンスがまとまったこの本が出たところだ。福岡伸一ワールド未体験の方はもちろん、これまで著者の本をいくつか読んできた方も、頭のなかをすっきり整理できるはず。
「これが最終講義だとしたら、あなたは人々に何を伝えたいか」という設定で講義をおこなうテレビ番組を、放送では使われなかった部分も含め完全版として書籍化するシリーズの一冊。質疑応答も含め、全体が「語り」の言葉なので読みやすい。幼い頃は昆虫を追いかけることがすべてだった福岡少年が、長じて「昆虫を捕っている場合じゃない」と思った人生の転機や、顕微鏡という自然科学に欠かせないツールを作ったオランダ人が科学者ではなかったことなど、誰にでも親しめるエピソードを織り上げていくことで、やがて大きなテーマが浮かび上がる。身体を機械と見なし、個々の内臓や遺伝子を部品と考えるだけではとらえきれない、ひとつの「流れ」としての生命。その実感が得られるのではないかと思う。