鮮烈なラスト数行 暗い輝きを放つ青春犯罪小説

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書籍情報:openBD

鮮烈なラスト数行 暗い輝きを放つ青春犯罪小説

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 非情の世界に足を踏み入れてもなお、愛を信じようとする。斜線堂有紀『恋に至る病』はそのような暗い輝きを放つ青春犯罪小説だ。

 冒頭、語り手の高校生、宮嶺によって二つの事柄が読者に伝えられる。幼なじみの寄河景が、百五十人以上の人間を殺した怪物であること、その怪物を宮嶺が愛していることだ。

 その後、物語は宮嶺と景の小学校時代へ遡る。景は転校してきたばかりの宮嶺家の隣に住む少女だった。可憐で優しい景に宮嶺は、淡い恋心を抱くようになる。ところが宮嶺の運命を変えてしまうような出来事が、景との小学校生活で起きてしまう。

 甘い恋物語のような幕開けが、暗黒の犯罪物語へと転じていく。怪物の顔を見せていく景に恐怖を覚えながら、宮嶺は彼女への思いを止められない。アンモラルな状況下で敢えて純粋な愛や強い結びつきを描き、破滅的な美を表す作者の特徴が、この主人公像に集約されている。

 鮮烈なのはラスト数行だろう。古今東西の犯罪小説家が挑んできた課題を、このような形で読者に問いかけるのか、という新鮮な驚きが本書の幕切れにはあるのだ。

 初恋という本来甘酸っぱい思い出を、どす黒いものとして描いた犯罪小説といえばジャック・ケッチャム『隣の家の少女』(金子浩訳、扶桑社文庫)である。川遊びの最中に出会った隣家の少女、メグに恋心を抱く少年デイヴィッド。しかしメグには秘密があった。微笑ましいボーイミーツガールが一変、凄惨な現実を突き付けてくる。人間の本性を覆う仮面を剥ぎ取る力が、ケッチャムの小説にはある。

 少年少女の軌跡と犯罪を描いた物語としては東野圭吾『白夜行』(集英社文庫)をお勧めしておこう。一九七三年に起きた殺人事件を起点に、その関係者であった少年少女の周りで起きる事件の数々を、昭和後期から平成初期の風俗描写とともに綴っていく。あの時何が起こったのか、いま何が起こっているのか、という

「What done it」の謎で読者を引きずり込む、大河犯罪小説だ。

新潮社 週刊新潮
2020年4月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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