未発表の長編推理小説に限る鮎川哲也賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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屍人荘の殺人

『屍人荘の殺人』

著者
今村 昌弘 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488466114
発売日
2019/09/11
価格
814円(税込)

書籍情報:openBD

未発表の長編推理小説に限る鮎川哲也賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 ミステリーファンの間で、江戸川乱歩賞と並んで受賞作に注目が集まる公募型の新人賞が、東京創元社の主催する鮎川哲也賞です。「創意と情熱溢れる鮮烈な推理長編を募集します。未発表の長編推理小説に限ります」というのが応募条件ですが、冠されている作家名が示すとおり、推理小説の中でも本格ミステリーの登竜門として知られています。

 一九八八年に東京創元社が全十三巻の書き下ろし推理小説シリーズ「鮎川哲也と十三の謎」を刊行する際に、その最終巻を「十三番目の椅子」として一般公募。翌年に企画を発展させる形で創設されたという、設立の経緯がユニークな賞としても有名。正賞はコナン・ドイル像で、賞金は印税全額となっています。

〈現在は未曾有の推理小説ブームとかで、新人賞が乱立しており、中にはテレビ局の後援を得て多額の賞金を出しているところもある。が、どこも私の愛する本格ものを志す有望な新人を発掘しようとする気概に乏しいと思うのは、私の偏見であろうか。少なくとも私の名を冠したこの賞だけは、未来の本格派作家の砦として、いつまでも初志を忘れず、続けていってほしいと切望するものである〉という鮎川の熱い言葉どおり、この三月末日に受賞作が決定した第三十回に至るまで、同賞は多くの才能を輩出しています。

 第一回受賞者の芦辺拓を皮切りに、加納朋子、近藤史恵、愛川晶、北森鴻、飛鳥部勝則、青崎有吾、市川憂人など。受賞には至らなかった最終候補者の中にも、篠田真由美、霞流一、貫井徳郎、柄刀一、似鳥鶏といった人気作家の名前を見つけることができます。

 第二十七回を受賞した今村昌弘の『屍人荘の殺人』が、国内のミステリーランキング四冠を達成し、普段本格推理を読まない層まで読者に取り込んで、大ベストセラーになったのは記憶に新しいところ。加納朋子、辻真先、東川篤哉が選考委員を務める最新の受賞作は、千田理緒の『誤認五色』です。十月に東京創元社から刊行予定なので、内容に関する情報は入ってきていませんが、“十人十色”を地で行く個性的な作品であることを期待しています。

新潮社 週刊新潮
2020年4月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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