「思枠」に囚われやすい人に有効。成長を促すスモール・ステップ

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「思枠」に囚われやすい人に有効。成長を促すスモール・ステップ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

私たちは何かしら行動に移ろうとするとき、思考の「枠組み」を無意識のうちに意識する。

そして、その「枠」と違う事態になると戸惑い、まさに「思惑(思ってたんと違う)」という字のとおりになってしまう。(「はじめに」より)

こう語る『思考の枠を超える 自分の「思い込み」の外にある「アイデア」を見つける方法』(篠原 信 著、日本実業出版社)の著者は、自身を融通の利かない「不器用者」だと認めています。

そして、不器用者はなぜ不器用者なのか、器用者はどうして器用なのか、気がついたことを言語化し続けてきたのだそうです。

その結果、「思考の枠組み、『思枠』がキーワードなのではないか」という思うようになったのだとか。

さらにいえば、不器用な人は「思枠」に囚われやすいということを意識するだけで、相当の改善が図れるのではないかとも考えているのだといいます。

つまり、そんな思いが本書の根底にはあるわけです。

きょうは本書の第5章「『思枠』を実践してみる」のなかから、「ナチュラル・ステップ、スモール・ステップ」に焦点を当ててみたいと思います。

スモール・ステップでの成長を促す

上司としての立場から部下の仕事ぶりを見て、「こうすれば、もっと仕事が速く進むのに」「ああすれば、もっと適切に仕事を完成させられるのに」というような思いにかられることはよくあるもの。

でも、そこで待っていられなくなり、「もういい! 俺がやる!」と言って仕事を取り上げてしまったとしたら?

当然ながら、部下はやる気をなくしてしまうことでしょう。

そればかりか、以後は「私には無理です」と尻込みするようになり、結果として上司である自分がひとりで仕事を抱え込むことになる可能性も否定できません。

このことに関連し、「仕事ができる上司は、自分のなかに「正解」を思い描いていることが多い」と著者は指摘しています。

「あの仕事はこうしたほうがいい」「この仕事はこう処理するともっと速くなる」というような「正解」とずれたことを部下がやっていると、つい「違う! こうだ!」と叱り飛ばしてしまうということ。

とはいえ、厳しく叱らず、やさしく接しながら「正解」を伝えようとしても、部下がどんどんやる気をなくすこともあるのだとか。

なぜなら、「正解」といまの自分の技能との間に差があることを、部下が感じるから

上司が抱く「正解」は、試行錯誤を経てたどりついたものであるはず。

そこにたどりつくまでに苦労をしたからこそ、「部下には苦労させずにマスターしてもらおう」という思いに基づいて「正解」を教えようとするのでしょう。

しかし私は、いわゆる「コツ」がコツであることを理解するには、失敗体験が必要なのでは、と考えている。

もし仮に「正解」を部下が丸暗記したとしても、なぜそれが「正解」なのか納得できず、なぜそれをそうしなければいけないのか理由も分からず、改良するつもりで別の方法を加えてみたら大惨事、ということがあるからだ。(207ページより)

上司としては親切心から、「正解」に一気にたどりつかせたいという「思枠」を抱いているのかもしれません。

しかし、部下の真の成長を願うのであれば、致命的ではない“小さな失敗”も経験してもらうべきだということ。

そうして地力を高めつつ、部下の現在の成長ステージから少しずつ、スモール・ステップで成長してもらうしかないということです。(206ページより)

スウェーデンのナチュラル・ステップ

スウェーデンでは、1992年のリオの地球サミット以降、環境問題に真剣に取り組み、いまでは環境先進国として知られる。

では、スウェーデンは環境対策を一気呵成に進めたのかというと、そうではない。ナチュラル・ステップという方針を最初に打ち立てた。(208ページより)

もちろん、環境問題はなるべく早く進めたいもの。しかし、だからこそ大切なのは、全国民的に進めること。

そんなとき、急進的な人が矢継ぎ早に対策を打とうとしても、国民はついていけずに反発が強まり、環境対策がむしろ滞る恐れがあるからです。

したがって、国民全体が自然に進めていけるスピード(ナチュラル・ステップ)で環境対策を進めようという方針を決めたわけです。

じれったいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、国民の納得を得ながら進めるため、全国的に対策が浸透して効果が大きかったそう。

スウェーデンが環境先進国になれたのは、「いま、自分たちがどのステージにいるのか」を冷静に観察したうえで、「そこからまた一歩進めばよい」という斬新的な考え方をとれたからだということです。

子どもの成長も、部下の成長も、いまのステージからあと一歩だけ前に、そうしたスモール・ステップ、ナチュラル・ステップの考え方で成長をうながしたほうが、結局は成長が早くなる。

上司が思い描く「正解」にワープさせようとしたら、「助長」になってしまいかねない。(209ページより)

助長とは、昔の中国で、隣の畑より苗の育ちが悪いことに腹を立てた男が、苗の成長を助けようとして引っぱった結果、根が切れて全部枯れてしまったという故事に由来しているのだといいます。

同じように、「正解」に一気にたどり着かせようという「思枠」は、部下の自然な成長を疎外し、かえって部下の意欲の根を切ってしまうことになりかねないわけです。

しかし、それよりは、部下が「上司の助けをほとんど借りることなく、自分自身の力で成長できたと感じられる(実際には上司のサポートがあったとしても)ようにするべき。

そうすれば、部下は「次も自分の力でなんとか成長してみよう」と意欲を増すことができるからです。

そこで著者は、「早くこのレベルに達してもらおう」という「思枠」を手放し、「部下の成長意欲を最大化するにはどうしたらよいか」という「思枠」に切り替えてみてほしいと主張しています。(208ページより)

「思枠」は、日常のいたるところに現れるもの。

そのため本書に書かれていることは、ビジネスシーンのみならず、さまざまなシチュエーションに役立てることができそうです。

Photo: 印南敦史

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2020年5月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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