<東北の本棚>入植者の歩みを克明に

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岩手山麓開拓物語

『岩手山麓開拓物語』

著者
黒澤勉 [著]
出版社
ツーワンライフ
ISBN
9784909825117
発売日
2020/01/01
価格
1,760円(税込)

<東北の本棚>入植者の歩みを克明に

[レビュアー] 河北新報

 盛岡市のベッドタウンとして成長した滝沢市には、戦後に開拓が進んだ入植地という顔もある。岩手山麓の当地に集ったのは旧満州(現中国東北部)の元開拓民や、近隣自治体の貧農の次男、三男とさまざまだ。本書は同市に住む著者が地元周辺の入植者約20人を訪ね、風化しつつある歴史を記録した労作である。
 元開拓民の入植者が切り開いた「狼久保(おいのくぼ)」の歴史は、1927年生まれの工藤留義さんの聞き書きを通じて紹介される。
 命からがら引き揚げた工藤さんは「大陸の夢をここでかなえよう」という誘いに、率直に「ああ、いやだ。また開拓か」と思った。だが、生きるためにもう一度くわを手にしたという。やせた土地、水利の悪さ…。満州引き揚げ者が再び直面した苦労が記される。
 元の住民がいた地域に入植した人には、先住民と貧富の差を感じるつらさもあった。子どもたちは、ヒエ飯の弁当を恥ずかしがり教室で隠しながら食べたという。そんなことを教えてくれるのは既に集落のあった一本木地区に岩手県岩泉町から入植した人々を取材した項だ。
 入植者それぞれの歩みを知ると、岩手山麓ののどかな風景がこれまでと違って見えてくる。元大学教員の著者は1945年十和田市生まれ。
 ツーワンライフ019(681)8121=1760円。

河北新報
2020年5月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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