中江有里「私が選んだベスト5」

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中江有里「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 絲山秋子『御社のチャラ男』。社内で密かに「チャラ男」と呼ばれる三芳部長を周囲の人々が語ることで、魑魅魍魎の会社組織が浮かび上がってくる。

「チャラ男って本当にどこにでもいるんです」

 給料や上司に不満があっても、自分なりのポリシーを守り、現状にひれ伏す社員たちの小さな叫びがリアル。いちいち神経を逆なでするチャラ男自身もその背景がわかってくると、それほど悪い人ではないと感じる(でも上司にしたくない)。

「わかりみが強い」というフレーズを初めて使いたくなった。

 山下澄人『小鳥、来る』。関西弁が飛び交う子どもの日常は平和そうに見えても平穏無事ではない。過去を後悔したり、未来に不安を感じたりする大人よりも今を直感で生きる子どもたちはタフだ。この強さがこの先の人生の屋台骨になっていくのかもしれない。

「小鳥が小鳥なんは小鳥のときだけやぞ」。もう小鳥の時代には戻れないから、やけに胸に沁みる。

 せきしろ、又吉直樹『蕎麦湯が来ない』は自由律俳句と散文が収められたシリーズ十年ぶりの最新刊。何でもない俳句がふいにツボに入り、両人の日常を映し出した散文はたまらなく情けないのに、愛おしい。

 若松英輔『いのちの巡礼者 教皇フランシスコの祈り』。二〇一九年十一月、三十八年ぶりに来日したローマ教皇。その意味、意義について著者が論じる。力ある者たちの論理で築き上げられてきた現代社会でこぼれた「弱き者」「貧しい人」に思いを馳せ、人はどう考え、どう行動するべきかの視座を与えてくれる。

 伊吹有喜『カンパニー』。タイトルは「会社」と「仲間」のダブルミーニング。会社から出向させられた先で仲間を得ていく主人公。胸が熱くなる大人たちの再生物語。

新潮社 週刊新潮
2020年5月7・14日ゴールデンウィーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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