北海道の進学女子校を舞台にした「今」こそ読みたい少女小説

レビュー

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金木犀とメテオラ

『金木犀とメテオラ』

著者
安壇 美緒 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087754520
発売日
2020/02/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

北海道の進学女子校を舞台にした「今」こそ読みたい少女小説

[レビュアー] 岡田育(文筆家)

「今」こそ読みたい少女小説

 北海道南斗(なんと)市に新設されたばかりの進学女子校を舞台にした物語である。ダブルヒロインの一人は宮田佳乃(よしの)。東京出身で、二歳からピアノの英才教育を受ける傍ら、都内の名門・桜蔭を受験して東大へ進む気まんまんだった。だが母の急死により、父親から寮のある中高一貫校へ行けと命ぜられ、不本意ながらも北海道へ飛ばされる。
 もう一人は奥沢叶(おくさわかなえ)。入学生総代と学級委員を務める特待生で、品行方正な美少女だが、貧しい母子家庭に育つ。母親の恋人からの気まぐれな資金援助なしには生活もままならず、奨学金をかき集めて地元を逃げ出すことだけを考えている。
 宮田を苦しめるのは死してなお夢枕に立って「完璧」を求めてくる母親の姿であり、バカにしていたド田舎の学校で成績首位を譲ろうとしない、くさいほど絵になる優等生、奥沢の存在だ。その奥沢を辱(はずかし)
めるのは狭い世界で男に依存して生きる無学な母親の姿、そして、どれだけ「完璧」を装っても自分が偽物に過ぎないことを思い知らされる、都会育ちのお嬢様、宮田の存在だ。
 幼い頃から「東大のピアノ科」という実態のないゴールを漠然と目指していただけの宮田は、青春を謳歌する級友たちが次々と将来の夢を見つける中、自分だけ未来の解像度が極端に粗いことに愕然とする。痛ましいほどの焦燥が渦巻く十二歳の春と夏、そして二人が「奇跡」に気づく十七歳の秋が描かれる。
 読み終えて久しぶりに幼馴染に会いたくなった。長く短い十代の時間を同じ女子校で過ごした連中である。あの頃の我々は自分たちを何でも数値化して比較していた。どの家が裕福でどの家が貧乏、全国模試でA判定だったのは誰と誰。死ぬほど羨(うらや)ましく憧れていたあの子、なぜだか嫉妬を買ってしまったあの子、長年会わずにいる顔を思い浮かべる。
『金木犀とメテオラ』は王道のライバルもの少女小説と言える。宮田や奥沢によく似ていた幼馴染たち、読んだらどんな感想を持つだろう。大人になった我々はもう、あんなふうに互いの優劣を競い合うことはない。あの頃、面と向かっては言えなかった胸の内を、本作の感想としてなら、交わし合える気がする。

岡田育
おかだ・いく●文筆家

青春と読書
2020年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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