書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
大森望「私が選んだベスト5」
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
野崎まどの最新長編『タイタン』は“仕事”がテーマ。時は2205年、世界12カ所の知能拠点に分かれた超高度AIタイタンが社会を完璧に管理し、仕事から解放された人類は、平和で安楽な日々を送っている。心理学を趣味とする内匠成果(ないし ょうせいか)は、ある日、思いがけない“仕事”を依頼される。第二知能拠点のタイタンに機能低下が発生。その原因を探るべく、心理カウンセリングを行ってほしい……。
AIのカウンセリングというアイデア自体は前例があるが、中盤に驚愕の大事件が起こり、小説は前代未聞のロードノベルに転調する。人間にとって“仕事”とは何か。SFならではの手法で“仕事”の本質を考えさせてくれる快作だ。
“考えるSF”を書く歴代No1と言えば、たぶん『ソラリス』の巨匠スタニスワフ・レムだが、1月に文庫化された『完全な真空』は、架空の本の書評集という体裁で、ジャンル横断的に奇想の限りをつくす爆笑の現代文学。とりわけ、宇宙の驚くべき秘密を鉄壁の論理で解明する巻末の架空講演「新しい宇宙創造説」が圧倒的にものすごい。
陳楸帆『荒潮』は、いま話題の中国SFで、若手No1の呼び声高い著者の第一長編。大量に集積された電子ゴミを処理するシリコン島を舞台に、サイバーパンク版「仁義なき戦い」みたいな抗争劇がノリノリで描かれる。『三体』の劉慈欣が“近未来SFの頂点”と絶賛する注目作。
貴志祐介『罪人の選択』は4編収録の作品集。今から33年前(!)に岸祐介名義で発表されたハードSF「夜の記憶」や、異色の時代SF「呪文」を収める。
最後に、高丘哲次『約束の果て 黒と紫の国』は日本ファンタジーノベル大賞2019受賞作。偽史ものかと思って読んでいるとクライマックスでものすごい大技が炸裂する。仰天。