• 愚か者の城
  • フラウの戦争論
  • 古都再見
  • 公安狼
  • 探偵コナン・ドイル

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縄田一男「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『愚か者の城』は、木下藤吉郎の「稲は宝だ」という述懐ではじまるが、従来の太閤記的泥臭さはない。人との間に壁を作らぬ藤吉郎と、竹中半兵衛、蜂須賀小六らとの間にできる人の輪のすばらしさ。そして良き妻・於禰(おね)を得ながらも、狂おしいまでに恋焦がれた於市(おいち)との訣別。これは、秀吉の青春の終焉を描く異色の一巻である。

『フラウの戦争論』は、クラウゼヴィッツの『戦争論』成立秘話。ナポレオン戦争を分析することで戦争の正体を見極めようとした夫の遺志を継ぎ、出版にまでこぎつけた妻(フラウ)マリーの知の愛情とでもいうべきものを描く作品。ラストのヴィルヘルム親王の温かいことばがたまらない。

『古都再見』は、二〇一七年に急逝した著者のすばらしいまでのエッセイ集。本書を読めば、ホンモノの作家の教養の凄さを思い知らされることになるだろう。歴史そのものに関するエッセイ以外にも「『柳生武芸帳』の秘密」なんて項目のある本を放っておけますか。

『公安狼』は、恋人を爆死させられて、活動家から公安の刑事になった男が主人公。四〇〇頁あるうちの前半一五〇頁がテロリストとの籠城劇。残りは、新たなテロを阻止するための死闘というように、読者をわし掴みにする第一級の娯楽作品。ゆっくりとページを繰るのがもどかしいほどの出来ばえ。

『探偵コナン・ドイル』は、久々に探偵小説らしい探偵小説を読んだ。コナン・ドイルとドイルの恩師ベル博士、そして男装の女性作家マーガレット・ハークネスのトリオが、イーストエンドの殺人鬼、切り裂きジャックを追う興味津々の一巻だ。実在の作家もあと二人登場。犯人の正体も文句なし。訳者あとがきにあるハークネスが主人公となる第二作もぜひ読んでみたいと思う。

新潮社 週刊新潮
2020年5月7・14日ゴールデンウィーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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