世界の悲惨 1・2・3 P・ブルデュー編著/認識と反省性 磯直樹著

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書籍情報:openBD

世界の悲惨 1・2・3 P・ブルデュー編著/認識と反省性 磯直樹著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 ピエール・ブルデューはフランスだけではなく、また社会学者だけにとどまらず、教育、文学、芸術など幅広い分野で読まれ、世界を理解するためのたよりにされてきた。

 彼の主導で30年ほど前にフランスや米国でおこなわれ公刊された聞き取り調査『世界の悲惨』が、今回、荒井文雄・櫻本陽一の監訳によってすべて日本語に置き換えられた。

 貧困や差別に苦しむ人をはじめ、警察官や教師という、一見、恵まれている立場もまた抱える「悲惨」が厚みと重さとともに伝わる。1冊で900頁(ページ)を超える原著は、10万部を超えたという。それほどまでに、彼らの声は切実さに満ちている。

 移民夫婦が、子どもたちの学校の成績を誇りにし、彼らの将来に夢を託す一方、別の中学教師は仕事も人生にも行き詰まりを感じる。読者は社会のいくつもの空間を知る。その読後感は宮部みゆきさんの『理由』に似て、苦さと深い思考を伴う。

 こうした調査の裏にはブルデュー独特の理論と概念がある。その背景を磯直樹『認識と反省性』が説く。

 磯によれば、ブルデューの出発点にはアルジェリアでの兵役がある。理論と調査を一体にしようと試みたから、さまざまな独自の用語を生み出す。そして、ブルデューの核心を書名に掲げた二つの観点で描く。

 認識とは、いつもの見方と異なる社会学の考え方によって、分析する対象を捉え、根拠に基づきはっきり確かめる営みと言える。反省性は、分析する側が自身を、できるかぎり客観的に問い直す試みだと言える。

 ブルデューは、やや単純と思える切れ味と、その反面の難しさが同居しているから世界中で読まれたのではないか。この4冊は、彼の両面性を再認識し、世界の悲惨を直視するための骨太の手引きとなるだろう。

 ◇Pierre Bourdieu=1930~2002年。著書に『ディスタンクシオン』など◇いそ・なおき=社会学者。日本学術振興会特別研究員。

読売新聞
2020年5月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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