まつろわぬ者たちの祭り 日本型祝賀資本主義批判 鵜飼哲(さとし)著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

まつろわぬ者たちの祭り

『まつろわぬ者たちの祭り』

著者
鵜飼哲 [著]
出版社
インパクト出版会
ISBN
9784755403033
発売日
2020/04/01
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

まつろわぬ者たちの祭り 日本型祝賀資本主義批判 鵜飼哲(さとし)著

[レビュアー] 西谷修(東京外国語大名誉教授)

◆国家にあらがう者の思想

 コロナ禍で日本は再び「緊急事態宣言」下にある。しかし緊急事態とは何なのか。それすらまともに問われずに、政府は権力の私物化を咎(とが)められながら、医療専門家に判断の責任を投げ、いやいや救済策を出したり引っ込めたりする。その一方でオリンピックだけは維持しようとし、沖縄の辺野古(へのこ)基地建設は都合よく設計変更申請、南西諸島の軍事拠点化も着々と進めている。日本はいったいどうなっているのか。それを考えるには、この「火事場」の構造を見てみなければならない。

 九年前、日本はすでに大災害を経験している。それからどうなったのか。「日本を取り戻す」のスローガンで現政権が成立し、「復興」の掛け声の下オリンピックが招致され、「世界の真ん中で輝く」と称して、瓦礫(がれき)は片づけられ、見えない放射能はないことにされ、打ちひしがれた人びとは視界の外におかれる。

 平成から令和への「世替わり」は国を挙げてのPRでその転換の化粧直しに使われた。だがその仕上げのオリンピックがおぼつかない。コロナ禍はその障害でしかなかった。だから「緊急事態」は混乱している。

 鵜飼哲はジャック・デリダの研究者としても知られる。ユダヤ出自で西洋哲学の「脱構築」を目ざしたこの哲学者の薫陶を生かし、世界史的視野そして世界の共時性を意識しながら、近代日本の抵抗の思想を検証し研ぎ澄ませてきた。この時期に近年の仕事を二冊の本にまとめたが、とくに日本に焦点を当てたのがこの巻である。

 三つの章からなる。最初は大震災とフクシマをめぐる考察、二章目は韓国との歴史共有とナショナリズムの問題、そして最後は、オリンピックとそれを梃(てこ)に駆動する現代資本主義の批判である。情況的課題に切り込んだ各論をつなぐのは、天皇制という特殊な国家形態によってこの国の趨勢(すうせい)から排除されてきた、文字どおり「まつろわぬ者たち」の思いを引き受ける志向であり、今日の「緊急事態」の日本的在り様の由来を解き明かしてもいる。

(インパクト出版会・2750円)

1955年生まれ。一橋大特任教授・フランス文学、思想専攻。

◆もう1冊 

鵜飼哲著『テロルはどこから到来したか』(インパクト出版会)

中日新聞 東京新聞
2020年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加