ジェンダーフリーと逆行する国土交通省 女性ドライバーを「トラガール」と命名する感覚に疑問

インタビュー

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トラックドライバーにも言わせて

『トラックドライバーにも言わせて』

著者
橋本, 愛喜
出版社
新潮社
ISBN
9784106108549
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

【独自取材】『トラックドライバーにも言わせて』著者・橋本愛喜氏インタビュー(後編)「女性の活躍促進は大歓迎、でも『トラガール』は間違い!」

[文] 藤原秀行(ロジビズ・オンライン編集長)


意欲は買うけれど…(「トラガール促進プロジェクト」ウェブサイトより)

改善基準告示の「30分休憩」が逆にプレッシャー

――厚生労働省は、トラックやバス、タクシー、ハイヤーの各ドライバーの労働時間などの規制に関する改善基準告示の見直しに向け、昨年末に専門家の委員会で議論を開始しました。

「非常に期待したいところですね。現在の改善基準告示はいろいろ問題がありますが、特に、いわゆる『430』(4時間連続で走行したら30分休憩を取る)の部分は現場のトラックドライバーさんには評判がめちゃくちゃ悪いんですよ。自分のタイミングで休ませてくれ、とみんな言います。せっかく気分が乗りに乗って今からいくぞ、となった時に、強制的に休まないといけなくなるタイミングの30分前になってしまった、みたいな感じなんです。その30分で駐車できる場所を探さなければいけないというプレッシャーにも襲われます。いざその場所に行ってみたら満車で止まることもできない。路上駐車したら周辺の人たちに怒られるけど、そのまま走ったら告示違反になってしまうので、やむを得ず駐車場じゃないところで休んでいる。そうした事情を消費者の皆さんや一般のドライバーの方々は全然知らないから、路駐するな、エンジンをかけっぱなしにするなと怒られます。ドライバーにとっては、もう理不尽でしかありません」

――見直しに関してはどのように要望しますか。

「今回は、告示の中に睡眠時間というワードを規定として取り入れるかどうかを議論されていると間接的に聞きました。もしそうであれば、ぜひ取り入れてほしいと思います。トラックドライバーはそもそも、働き方改革に伴って設定された残業時間の上限適用が2024年まで猶予されており、その上限自体も960時間と長く、一般職と全然異なっています。その違うということ自体が、第一線で頑張っているドライバーの皆さんの中では『なぜこんなに条件が違うんだ』という不満になっているんです。私もまだまだ勉強中なので明確な回答があるわけではないんですが、良い具合に現在の(一般職とドライバーの規制内容が違うという)ねじれを変えていければいいですね」

――国や運送業界で女性ドライバーの活躍促進を目指す動きが広がっています。これまでの取り組みをどのように評価されていますか。

「ドライバー全体を見ても、現状では女性が2%余りしかいませんから、増えること自体は大歓迎ですし、協力してほしいと言われれば喜んで協力させていただきます。ただ、国土交通省が主導している女性のドライバー活躍促進プロジェクトには全く賛同できません。そもそも、女性ドライバーを『トラガール』と命名するというような感覚が…(笑)。今社会全体で、CA(キャビンアテンダント)や看護師といったように性差を問わない職業名へ変えてきている中で、トラガールとはいったい何を時代に逆行しているのか?と思いますよ」

「それに、プロジェクトの内容を紹介するウェブサイトで、女性が乗るトラックをピンク色にして紹介しているのを見た時は国交省に抗議の電話をしようと思ったくらいですよ(笑)。これは明らかにやり過ぎだろうと。もちろん、女性のトラックドライバーさんが自分で好んでピンクのトラックに乗るのは全然問題ありません。それは好みですから。しかし、女性の活躍促進を目指すプロジェクトを象徴する存在でもあるトラックをピンク色にすることはあり得ないでしょう。運送の現場にはピンク色がそもそもありません。泥が付いたら茶色ですし、ほこりが付けばねずみ色なのに、そんな状況でピンクって?と思いますよ」

「先ほどのトラガールの件だって、丸の内のオフィスに勤めているホワイトカラーの女性を『事務ガール』と呼んだらどう思いますか? 絶対にヤフーニュースのトップになりますよ(笑)。そのおかしさを業界も感じていないんです、残念ながら。男性が多いし、女性には『どうしてスカートをはいてきていないの?』みたいなことを平気で言えてしまう」

――確かに男性の私から見ても「トラガール」の命名センスには正直言って面喰いました。意欲は買うけど…というところでしょうか。

「やり方と発想がちょっと違いますよね。トラガールはブルーカラーの実態に全く目を向けていない発想です。私の考えていることがみんな正しいだなんて全く思ってはいませんが、トラガールに関しては不正解! それは間違いありません」

ロジビズ・オンライン
2020年5月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ライノス・パブリケーションズ

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